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        <title>ラグナロクオンラインオリジナル小説@rebelizm</title>
        <link>http://rebelizm.com/novel/</link>
        <description>藤代叶の脳内鯖で繰り広げられるRO小説。</description>
        <language>ja</language>
        <copyright>Copyright 2008</copyright>
        <lastBuildDate>Wed, 23 Jan 2008 07:36:55 +0900</lastBuildDate>
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            <title>RO小説本編66話</title>
            <description>「クロウ――――――！」
　途切れた意識を呼び戻したのは、フィリアの悲痛な叫びだった。
意識が戻ると同時に体中を激しい痛みが襲う。再び遠のきかけた意識を放さず、重い瞼をこじ開けた。
目に映ったのは先程と同じ刃だ。だがそれはクロウの腹に深く食い込み、彼の体を壁に縫いつけている。
「う……がはっ」
　喉の奥からこみ上げてきたものを吐き出す。大量の血が口から溢れ、血に塗れた刃を更に赤く染めた。
刃を掴み引き抜こうとするが、ただでさえ鎌は桁外れに重量がある上に、今のクロウには殆ど力が残っていない。刃を掴む腕も震え、思うように動かせない。顎を濡らす血を拭う事すら出来ない。
そんなクロウにとどめを刺すべくバフォメットが近づいてくる。すぐ傍にカタールが転がっているのに気づいたクロウは、それを掴もうと手を伸ばした。だが体は壁に固定されていて動かす事が出来ず、あと少しのところで届かない。それでも諦めずに、必死に震える手を伸ばし続けた。
「ク……ソッ」
　そうしている間にもバフォメットが迫る。カタールの柄に指先が触れた。もう少し。けれどまだ届かない。
バフォメットが口角を上げニタリと笑う。遠くでフィリアの悲鳴が聞こえたような気がした。
「クロウ！クロウ逃げて！」
　光の壁を叩きながら、フィリアは必死に呼びかける。あの状態では動けないのは頭では分かっているが、それでも叫ばずにはいられない。セイフティーウォールが徐々に薄れていく。これが消えれば、すぐにでも駆け寄って彼の盾になるつもりだった。
（ううん、それじゃ駄目。私が身代わりになっても、それじゃクロウを助けられない。どうすれば……！）
　焦燥に駆られながらも必死に打開策を探るうちに、先日覚えたばかりの魔法の事を思い出した。
「そうだわ、あれなら……」
　その魔法は術者に危険が伴う。だが迷ったのは一瞬で、覚悟を決めたフィリアは、スッと胸の前で祈るように両手の指を絡ませた。

　―――我が守護の天使
　―――全ての命に等しき数多の神々よ
　―――気高き御身の力請う

　薄れゆく意識の中で微かに聞こえた祝詞に、クロウは我に返った。僅かに顔を上げ声のする方を見ると、フィリアが目を閉じ一心に祈っている姿が目に映る。その小さな体は淡い光に包まれ、緩やかな風が彼女の髪を揺らす。それはとても幻想的な眺めではあったが、その祝詞が何であるかが分かったクロウは、体の痛みなど気にもせず叫んでいた。
「やめろ！その魔法は……」
　だがフィリアの声は止まない。再び叫ぼうと口を開きかけたクロウは、彼女の後ろに迫るレイドリックの姿を捉えた。
「フィ―――」
　祈りを続けるフィリアの胸を、レイドリックの剣が貫く。目を見開き体が傾きかけるが、フィリアは踏みとどまり最後の祝詞を紡いだ。

　―――絶えざる光をかれらの上に
　―――我　自らを贄として
　―――斃れし朋友（とも）の光とならん

「―――レディムプティオ！」
　祝詞が終わると同時に彼女の体は光に包まれ、レイドリックは光に飲まれるように溶けて消えた。
次いで、倒れたままのティーゲルやカイルの体も光に包まれた。クロウも例外ではなく、目を開けていられないほどの眩い光に包まれて思わず目を閉じた。
その光は力強いながらも優しく暖かく、傷ついた体を柔らかく包み込む。而して光が薄れ消えゆく頃には、体に食い込んでいた鎌は床の上に転がり、体の傷は嘘のように消え去っていた。意識を取り戻したカイル達も体を起こし、何が起きたのか分からないといった感じで自分達の体に目を落としている。
　そんな中、クロウはフィリアの姿を探す。ただ一人立っていたフィリアの姿を見つけると立ち上がり、駆け寄ろうとした。その途端、彼女の体が僅かに揺れたかと思うとぐらりと大きく傾いた。
「フィリアァァァァッ！」
　叫びながら駆け寄ったクロウは、床に崩れ落ちる寸前で彼女の体を抱きとめる。血の気を失った彼女の顔は蒼白で、瞼は固く閉ざされていた。
彼女の背中に回した右手がねっとりと血で赤く染まる。先程レイドリックにやられた傷だ。だが、彼女の衰弱はその傷のせいだけではなかった。
フィリアが唱えた魔法『レディムプティオ』はその祝詞にある通り、自らの命と引き換えに仲間を蘇らせるものだ。『命』という大きすぎる対価故に、滅多に使われる事は無い。術者の余程の覚悟が無いと使えない代物である。
けれどもフィリアはやってのけた。仲間達を助ける為、この最悪な状況を打破する為に、彼女は自らを犠牲にする事を選んだのだ。
クロウの腕に抱かれたフィリアは、最後の力を振り絞るようにしてゆっくりと目を開けた。
「フィリア……しっかりしろフィリア！」
　悲痛な面持ちで呼びかけるクロウを虚ろな目で見つめながら、フィリアはうっすらと笑みを浮かべる。
「良か……た、無事で……やっと……あなたの役に、立つ事が出来た……」
「馬鹿野郎！こんな、無茶しやがって」
　ゆっくりと腕を上げ、震える手でクロウの顔にそっと触れる。それは驚くほど冷たく、クロウは思わずその手を握り締めた。
「やっと、名前……呼んでくれた……嬉し……」
「名前なんざいくらでも呼んでやる！だから……」
「……生き、て」
　掠れた声で零れた言葉に、クロウはハッと目を見開く。
「あなたは……生きて……これから、は……自由に……」
「お前……」
「クロウ……私、あなたが、す……」
　握り締めた手から力が抜け、すうっと瞼が閉じられる。何度も何度も体を揺さぶったが、フィリアは何の反応も示さなかった。
「フィリア……おい、起きろ……フィリア！」
　いくら呼びかけてもフィリアは動かない。ぐったりとクロウに体を預け、微かに笑みすら浮かべている。その顔はとても穏やかで、ただ眠っているようにしか見えなかった。
「ふざけるな……俺は、こんな事の為にここに来たんじゃない。こんな事の為に、ギルドの狗になったんじゃない……。目を覚ませ。もう一度、声を聞かせろ……！」
「フィリアさん！」
　カイルとニーナがこちらへ駆け寄ってくる。だが突然地響きが起こり、彼らとクロウ達との間の床に亀裂が入った。
レディムプティオの光に目をやられ怯んでいたバフォメットが、床に振り下ろした鎌を持ち上げニーナ達に襲いかかった。グエンやティーゲル達が応戦するが、ニーナはその支援に手一杯でフィリアの元に行く事が出来ない。
するとシシィが戦闘を抜け出して亀裂を飛び越え、駆け寄ってきた。傍まで来て座り込むとフィリアの首筋に手を当てる。普段のクロウなら同じ事をしていただろうが、今の彼は冷静さを欠いていてそこまで気が回らなかった。
極めて弱々しいがまだ脈打っているのを確認して安堵すると、シシィは腰につけた小さなバッグの中を探り始めた。
「今ならまだ、間に合うかもしれない」
　そう言いながら彼女が取り出したのは、イグドラシルの種だった。この世界を支える世界樹イグドラシル。聖なる力を宿したその木の実や種には、生命の源とされる力が詰まっていると言われている。
彼女はフィリアの口元にそれを寄せたが、動かないフィリアは口を閉ざしたままだ。口をこじ開けて飲ませようとしても、今のフィリアには飲み込めないだろう。
「どうしよう、このままじゃ……」
　今にも泣き出しそうな顔で、シシィは諦めず口の中に種を入れようとした。
「……ポーション、あるか」
　その様子を黙って見守っていたクロウが問う。シシィは再びバッグの中を探ると、細長い瓶を取り出して種と共にクロウに渡した。クロウは受け取った種を、次いで瓶の中身を口に含む。一体どうするのかと尋ねようとしたシシィの前で、クロウはフィリアの顎を掴み顔を近づけると、血の気の失せたその唇に自分のそれを重ねた。
「―――！」
　シシィは思わず口に手をやり顔を赤らめた。だがクロウはそんな事はお構い無しに、掴んだフィリアの顎を動かして口を開けさせ、更に深く口づける。するとフィリアの喉が僅かに動いた。無理矢理流し込まれて、反射的に体が動いたのだろう。
フィリアの体が淡い光に包まれる。その光が消えると胸の傷からの出血が止まっており、あんなに冷たかった体が徐々に温もりを取り戻していく。
「良かった……」
　だが安心してもいられない。未だバフォメットは健在で、ティーゲル達は善戦しているが徐々に押されてきている。ニーナの支援も追いつかず、各々の体に刻まれる傷は増える一方だった。
詠唱中のフェルミナに鎌が迫る。傍にいた騎士が前に出て剣で防ぐが、衝撃に耐え切れなかった剣は真っ二つに折れ、騎士の体を裂いた。
「ダーレス！」
　フェルミナは詠唱を中断して倒れたダーレスを抱き上げると、そこにまた鎌が振り下ろされた。ニーナの唱えたキリエエレイソンによりそれを防ぐ事は出来たが、もはや彼女の魔力も限界にきていた。
彼らの顔に苦渋の色が浮かぶ。ニーナの魔力を補おうと、シシィは魔力回復剤である青い液体の入った瓶を取り出すが、その手をクロウに掴まれ制されてしまった。
「クロウさん、どうして」
「……街に戻れ」
　クロウの言葉に驚いて目を見張る。彼はバフォメットを見据えたまま、言葉を続けた。
「もういい、このままじゃ全員やられる。俺が奴を引きつけている間にポータルで戻れ」
「あなたはどうするの？」
　問われて一瞬別の方向に目を向けた後、今度はシシィに目を合わせた。
「俺は残る。もう少し時間を稼がなきゃならん」
「時間稼ぎって……」
「それに、こいつをこのままにしておくわけにもいかんだろう」
　言いながら、腕の中のフィリアに目を落とす。彼女はまだ意識を取り戻す事無く、彼の腕に体を預けたままだった。レディムプティオにより一度命を失いかけたのだ、動けるようになるまでしばらく時間が必要だろう。それまでここに置いておくわけにはいかなかった。
「でも……」
　それでもシシィは食い下がろうとする。これだけの人数でも苦戦しているのに一人でなど到底無理な事は、この場にいる彼女には痛いほど身に沁みているのだ。
「じゃあこう言えば納得するか？一度街に戻って、応援を呼んで来てくれ」
　その言葉にハッとしたシシィはみるみるうちに表情を歪め、俯いてしまった。
「クロウさん、それ……卑怯だよ……」
「…………」
　街に戻り応援を呼んでここに再び辿り着くまで、一人で持ちこたえられるとは思えない。けれど今の人数でもどうしようもないこの状態でそんな事を言われては、言い返す言葉も見つからなかった。
俯いたままのシシィの頭に手をやると、彼女は目に涙をいっぱいに溜めた顔を上げた。そんな彼女にフィリアを預けたクロウは立ち上がり、
「フィリアを、頼む」
　そう言い残して走り出した。
向かう先はバフォメット。その延髄に蹴りを入れ飛び退いたグエンと入れ替わるようにして、彼は巨体の懐に飛び込んだ。
「ニーナ！プロンテラに戻るわ。ポータル出して！」
　シシィの言葉に、カルネヴァルの者達は驚いて振り返った。
「シシィ、何言って……」
「戻って応援を呼んでくるのよ。いいから早く！」
　シシィの声は掠れていた。彼女はフィリアの体を抱きしめながら、今にも嗚咽を漏らしそうな顔で請うている。
その様子から全てを察したティーゲルは、困惑するニーナの肩に手をやり促した。
「ニーナ、頼む」
　ニーナは未だ困惑した表情を浮かべていたが、ティーゲルに促されてぎこちなく頷くと、プロンテラへのポータルを開いた。グエンがシシィに駆け寄り、彼女の代わりにフィリアを抱き上げる。傷ついたダーレスを支えながらフェルミナがポータルの中に入ると、続いてグエンが足を踏み入れる。その後ろにいたシシィは立ち止まりティーゲルとしばらく目を合わせていたが、ティーゲルが軽く頷くと彼女も同じように頷き、光の渦に入った。
「ティーゲルも早く」
　そう言って振り向こうとしたニーナは突然後ろから背を押されよろめき、ポータルへ足を踏み入れてしまった。
「ティーゲル！何を……」
　その言葉が終わらぬ間に、彼女の姿は光と共に掻き消えた。
「どういうつもりだ」
　ティーゲルの傍に着地したクロウは、目も合わさず問う。するとティーゲルはフンと軽く鼻を鳴らし、腰に手を当てて言った。
「お前らだけに任せておけるか。俺はカルネヴァルのギルドマスターだ。あいつらが戻ってくるまでこの場を預かるのが、マスターの務めってもんだろう」
「面倒見きれんぞ」
「いざとなったら蝶の羽で戻るさ。心配するな」
「……カイル、お前は関係ないだろう。さっさと戻れ」
「んー、あーそれ無理」
「はぁ？」
「蝶の羽忘れた」
　カイルの言葉に呆気に取られ言葉を失ったクロウは何か言いたげな視線を送ったが、やがて諦めたように溜息をつき「馬鹿ばっかだ」と呟くと、カタールを握り直して再びバフォメットへ向かっていった。</description>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">RO小説本編 - karma</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 09 Feb 2007 23:51:30 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>RO小説本編67話</title>
            <description>　バフォメットの力に押されていたとはいえ、今までの戦闘でかなりのダメージを負わせているはずだ。破壊力こそ衰えていないが、最初と比べると動きが鈍くなっている。
ティーゲルは自らの足元にセイフティウォールを作り出し、そこから絶え間無く魔法を放つ。クロウとカイルは動き回る為セイフティウォールの加護は受けられないが、バフォメットの攻撃をすり抜け何とか持ちこたえていた。
けれどもやはりプリーストの支援が無いとなると、体にかかる負担は大きい。二人とも悲鳴を上げる体を無理矢理動かし、顔には苦渋の色を浮かべている。ティーゲルの方も魔力を補う回復剤を使い果たし、額に汗を滲ませていた。
　隙を見せたらやられる。それは重々承知していたが、積み重なる疲労のせいか、僅かにティーゲルの息が乱れた。
連続して発生させていたセイフティウォールが一瞬途切れる。慌てて再び光の壁を作ろうとしたが、バフォメットの反応の方が早かった。赤い光弾がティーゲルに降り注ぎ、吹き飛ばされた彼の体は床に叩きつけられ跳ねた。
「ティーゲル！」
　口元に血を滲ませながらもすぐに起き上がり魔法を放とうとしたティーゲルの目の前に、離れていたはずのバフォメットが現れた。視覚で捕捉出来ないほどの速さで移動したバフォメットは、間髪入れず鎌を横に薙ぐ。切り裂かれ吹き飛ばされたティーゲルを追い、血を飛び散らせたその体に更に刃を突き立てようとした。
それを防ごうと、クロウとカイルは全速力で走る。
（クソッ、間に合わねぇ！）
　鋭く尖ったバフォメットの赤い眼が光る。傷口を押さえ蹲ったまま顔を上げたティーゲルの目には、凄まじい勢いで振り下ろされる刃が視界一杯に広がった。

　―――ザシュッ

肉を切り裂く音と共に、周囲に鮮血が飛び散った。
目を見開き驚愕に固まったティーゲルの視界が赤く染まる。
飛び散った血が彼の頬に降り注ぐ。一瞬遅れて、何かが床に転がる音がした。
「な……」
　目の前に立つ人影を凝視し、絶句する。
凶刃はティーゲルを襲わなかった。それは彼の前に飛び込んできた人物によって遮られた。
わなわなと震えながらゆっくりと視線を床に向ける。その人影の足元に転がるものを見ると、ティーゲルは全身の血が凍りついたような錯覚に陥った。
　床に転がるそれは、バフォメットによって切り落とされた腕だった。
「クロウ！」
　カイルの叫び声で我に返ったティーゲルが顔を上げると、目の前に立つクロウが両膝をつき、痛みに耐えるように左肩を掴んで蹲った。
「―――っ」
　二の腕から左腕を切り落とされたクロウは、額に汗を滲ませ固く目を閉じている。左半身を血で赤く染めながらも、彼は呻き声すらあげなかった。指が食い込むほどに肩を掴み、ひたすら痛みに耐えながらうっすらと目を開けた。
「ば……馬鹿野郎！何で飛び込んできた！」
　立ち上がろうとしてふらついたクロウの体をカイルが支える。自身も多量の出血で息を荒げながら、ティーゲルは抗議の声をあげた。
「……あいつが……フィリアが命懸けで救った命を、むざむざ消してたまるかよ」
　肩越しに振り返ったクロウと目が合う。その目は、戻れと訴えかけていた。
思わず口を開こうとしたティーゲルだったが、クロウは首を振ってそれを制する。
彼らには傷を癒す力が無い。回復剤も底をつき、聖職者のいないこの状況でこのままここに残っても彼らの足手まといになるだけだ。自分の無力さに歯噛みしつつ、震える手で懐から蝶の羽を取り出し顔を上げる。それを見たクロウが頷くと、ティーゲルは苦渋に満ちた表情を浮かべながら蝶の羽に込められた魔力を開放させた。
「お前も、戻れ」
　ティーゲルの姿が消えた後、カイルに目を向けそう言うが、
「言っただろ？蝶の羽忘れたって」
　肩を竦めて答えたカイルは、いつも通りの笑顔を向けてきた。
こう見えて、カイルも結構頑固な男だ。それはクロウが一番良く分かっている。蝶の羽を持ってないなどと言って実は持っていたりするのだろうが、言ったところで聞くような男ではない。
「大馬鹿野郎め」
　悪態をつきながらも笑みを浮かべるクロウ。そんな彼を見て声を出して笑ったカイルは、床に置いた斧を拾い上げ、立ち上がって肩に担ぐ。クロウも床に転がったままのカタールを掴んで立ち上がった。
「あとちょっとってところかな」
「そうだな。さっさと片付けるぞ」
「頼りにしてますよクロウさん」
「馬鹿力のお前には負けるさ」
　巨体が咆哮をあげ、鋭く爪を尖らせた腕が二人に迫る。左右に飛び退いた二人はタイミングをずらして斬りかかり、巨体を翻弄する。だがその最中に、クロウの動きに変化が生じた。怪我のせいではない。別の要因により、彼の動きが乱れ始めていた。
「クロウ、お前、目が……」
　カイルの察しは正しかった。さっきのように完全に見えなくなったわけではないが、視界がぼやけ二重三重に景色が見える。攻撃を避けてはいるがそれはギリギリで、彼の体には細かな傷が刻まれていく。
見えない事で生じた焦りが、更に彼の動きを乱す。鎌が鼻先をかすめ、後転してかわしたクロウは床に手をつき乱れた呼吸を整えた。
一向に回復しない視力に苛立ち歯噛みする。その時、ふとエミリオに言われた事を思い出した。
『空気を切り裂く音を耳で聞き、大気の流れを肌で感じて戦ってきたんじゃねえのか？』
　戦いは視覚だけによるものではない。五感全て―――いや、第六感も含め全ての感覚を総動員して戦っているはずだ。つい視覚ばかりに捕らわれて、大事な事を忘れていた。
クロウは立ち上がると、目を閉じ呼吸を落ち着けた。
そこへバフォメットの拳が迫る。だがクロウは目を閉じたままで、腕も下におろして構えすらしない。
迫る風を、叩きつける邪気を、それら全てを体中で受け止め、拳が間近まで迫るのを待つ。
「クロウ！」
　呼びかけてもクロウは動かない。思わず足を踏み出しかけたカイルだったが、その必要は無かった。
バフォメットの拳はクロウを捉える事無く空を切り、寸前で腰を落としかわしたクロウはカタールを握った右腕を上げていた。
クロウの動きがカイルには見えなかった。呆然と食い入るようにその光景を見つめていると、バフォメットの肘に筋が入り、肘から下が轟音と共に床に落ちた。
右腕を切り落とされたバフォメットは正気を失い、狂ったように暴れ始めた。その動きは荒々しく勢いは凄まじいがキレが無く、避けるのは容易い。一撃。二撃。滅茶苦茶に暴れる腕の合間を縫って懐に入り、剣戟を叩き込む。バフォメットが片膝をついた。もう少しだ。クロウはバフォメットの腕を切り落とした右側に回り込み、跳躍した。
バフォメットが腕を振るう。だが肘までしかないそれはクロウに届かない。
　―――これで終わる。
そう確信したその時、信じられない事が起きた。
クロウの目の前で、バフォメットの腕の傷口から新たな腕が生えてきた。体を捻って避けようとしたが間に合わず、生まれたての血にまみれた手はクロウを掴み握り潰そうと力を込めた。
「が、はっ！」
　肋骨の折れる音が脳に響く。体を襲う凄まじい圧力に気を失いそうになりながらもその手に何度もカタールを突き立てるが、その程度ではびくともしない。幾度目かの骨の折れる音を聞き、意識が遠のく。その時、クロウを掴む腕にカイルが斧を振り下ろした。僅かに力が緩むが、それでもまだクロウを放さない。
「くそっ、放しやがれ！」
　斧を引き抜き再度叩きつける。バフォメットはカイルを振り落とそうと腕を大きく振るい、掴んでいたクロウを放り投げた。
床に叩きつけられたクロウの体は数度跳ね、床の上を転がり壁にぶつかった。
腕に食い下がっていたカイルも吹き飛ばされて宙を舞う。そんな彼の体を、バフォメットは手にした鎌で切り裂いた。
横たわるクロウの傍に落下したカイルは、ぐったりと床に転がり動かない。なんとか上体を起こしたクロウだったが、激しい痛みに耐え切れず突っ伏してしまった。
咳き込むと同時に血の塊を吐き出す。左腕の出血が酷く、意識が朦朧としてきた。視線だけを動かしカイルを見やるが、彼は飛び散った鮮血の中でうつ伏せに転がったままだ。
そんな彼の周りに、ポケットなどから落ちたポーションが散乱していた。傷を癒す白い液体の入ったものがひとつ、ふたつ。鮮やかなオレンジ色をした、身体能力を格段に増幅させるバーサクポーション。そして、蝶の羽。
（やっぱ持ってんじゃねぇか……っ）
　内心毒づきながら、クロウは手を伸ばしバーサクポーションを掴んだ。これは一種の麻薬のようなもので、一定時間能力の増幅と痛覚の緩和が得られるという。副作用が強く、剣士や商人等、ギルドが行う修練で徐々に体に慣れさせた者しか使用できない代物だ。アサシンは一般的な毒への免疫力をつけなければならず、それと併せてバーサクポーションの免疫もつけるのは危険とみなされ、それよりも密度の低いものを使用している。
　手の中で揺れる液体を見つめる。思うように体が動かない今、痛みを緩和できるというのは願っても無い事だ。だが免疫のついていないクロウが使用した場合何が起こるか分からない。口にした途端、心臓麻痺で死ぬ可能性も無きにしも非ずだ。とはいえこのままでは二人とも殺されてしまう。ならば、少しでも可能性のある方に賭けるしかない。
意を決したクロウは右手で掴んだ瓶の蓋を咥え、歯で外して吐き捨てる。うつ伏せだった体を仰向けにすると、僅かに開けた口に液体を流し込んだ。
「―――ッ」
　視界が大きく揺れ、鼓動が跳ね上がる。激しく脈打つ心臓が破裂しそうだ。液体の流れ込んだ喉が、胃が、焼けるように熱い。血液すら沸騰するのではないかと思うほど、体中が熱を帯びていた。思わず体を丸める。眼球の奥で何度も光が弾けた。滝のように流れる汗に濡れた体が硬直し、痙攣を起こす。
　荒々しい呼吸を幾度か重ねた後、それらの症状がおさまった。同時にあれだけ苛まれていた体の痛みが嘘のように消えている。上体を起こしたクロウは、今まで経験した事が無いほどの力がみなぎっているのを感じた。
　立ち上がり、散乱したポーションを拾いながらカイルへ歩み寄る。右肩から腹まで裂かれており、出血が酷い。拾ったポーションの蓋を開け、二本とも傷口にかけた。傷は完全に塞がったわけではないが、それでも出血が止まっただけマシだろう。
空になった瓶を置き、カタールを握り締め振り返る。そこに鎌が振り下ろされたが、クロウはカタールの刃でそれを受け止めた。受け止めただけではない。そのまま押し返すように立ち上がり、腕を横に振って鎌を弾いた。バフォメットがバランスを崩し体を前に傾ける。その場で高く跳躍したクロウがバフォメットの顎を蹴り上げると、巨体は轟音と共に後ろに倒れこんだ。
仰向けになり晒された腹に深くカタールを突き刺したかと思うとすぐに引き抜き、今度は鎌を握る左腕を切り落とす。飛び退こうとしたクロウに、彼を飲み込もうと大きく口を開けたバフォメットの顔が迫る。だがクロウは避けようとはせず、そのまま飲み込まれてしまった。
バフォメットの顔に笑みが浮かぶ。だが次の瞬間その体が数度小刻みに震えたかと思うと、口の端から大量の血が流れ出した。首の後ろの皮膚が持ち上がり、裂ける。そこから飛び出してきたクロウの体は、バフォメットの血を浴びて真っ赤に染まっていた。
敢えて飲み込まれたクロウは内部からソニックブローを放ち、バフォメットの喉を掻き切ったのだ。
バフォメットの体はゆっくりと傾き、床に崩れ落ちた。
　封印には首が必要だ。プロンテラ北の洞窟内にある祭壇に首を持って行き、術者による儀式が終われば封じる事が出来る。
首を切り落とそうと近寄ったクロウだったが、不意に違和感を感じて振り返った。先程まで自分を監視していたはずの気配が消えている。バフォメットを倒したのを見届けて、ギルドに戻ったのだろうか。それとも別の要因でギルドに呼び戻されたのか。
クロウがギルドを出てから半日経とうとしている。もしかするとヒューゲル達が既に行動を起こしたのかもしれない。
焦ったクロウはポケットから蝶の羽を取り出そうとして、ふと顔を上げた。視線の先にはカイルが横たわっている。彼をこのままにしておくわけにはいかないが、かといって彼を連れて街にに寄れるだけの時間の余裕があるわけではない。
迷い奥歯を噛みしめるクロウの耳に、複数の足音が聞こえてきた。魔物ではない。微かに聞こえる話し声の中に聞き覚えのある声があった。シシィだ。約束通り、彼女は応援を呼んで駆けつけたのだ。
再度カイルに視線を送る。
彼女なら信用できる。カイルとバフォメットの事は彼女に任せようと、自らに言い聞かせるように頷いたクロウは蝶の羽を取り出した。

「ん……」
　頭が割れるように痛い。まだもう少し寝ていたいと思いながらも、体を揺り起こされて嫌々ながらに瞼を開けた。
「あ、れ」
　最初に目に映ったのは、心配そうに覗き込むアルケミスト―――シシィの顔だった。彼女はカイルが目を開けたのを見ると、安心したように笑みを浮かべた。
起き上がって辺りを見回す。そこには数人の見知らぬ冒険者達がおり、その向こうには床に転がったバフォメットの巨体が見えた。
「カイルさん、クロウさんは？彼はどうしたの？」
「え？」
「どこにもいないのよ！私達が来た時にはもうバフォメットは倒されていて……」
　途中から彼女の声は耳に届かなかった。慌てて周囲を探すが、それらしき姿は見つからない。ふと何かが指に当たりそちらに目をやると、空になったポーションの瓶が三つ転がっていた。
咄嗟にジーンズのポケットを探る。中は空だった。自分のシャツが濡れているのに気づき、シシィがポーションを使ったのかと思い尋ねたが、
「いいえ、あなたの傷は彼女に癒してもらったから」
　そう言って、傍にいるプリーストを指す。その瞬間、さっとカイルの顔から血の気が引いた。
「あの馬鹿っ……つ！」
　立ち上がろうとして、激しい頭痛と共に眩暈を起こしたカイルは床に手をついた。
「まだ動いちゃ駄目、だいぶ出血してたみたいで弱ってるんだから。フィリアさんは教会に預けてきたから、あなたもそこへ行きましょう」
　シシィの肩を借りて立ち上がり、プリーストが唱えたポータルへ足を踏み入れる。拳を握り締めたカイルの心はクロウの身を案じながら、言い知れぬ不安に満ちていた。</description>
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            <pubDate>Wed, 28 Feb 2007 21:34:36 +0900</pubDate>
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            <title>RO小説本編68話</title>
            <description><![CDATA[　水晶から光が消えても、ヴィザリオは視線を逸らさず何も映さない水晶を凝視していた。グラーヒを呼び戻す直前に見えた映像が目に焼きついている。それを頭の中で反芻していると、一時部屋を出ていたヴァラが戻り声をかけた。
「マスター、先程の件ですが」
　だがヴィザリオは反応を示さない。ヴァラは構わず話を続けた。
「非常にまずい状態になっております。地方に散らばった者達と連絡が取れない上に、ノルデンシェルドやマグワイアも消息を絶っています。そして先程プロンテラから帰還した者の話―――マリウス神父が生きていたというのが本当ならば、もはや王家に小細工は効きますまい。早々に次の手を打たねば……マスター？聞いておられるのですか？」
　ヴィザリオの肩が小刻みに震える。不審に思い再び声をかけようとした途端、ヴィザリオは高らかに声をあげて笑った。
「ふ……ク、クク……ははははははっ！」
　普段は冷静沈着なヴァラだったが、突然の事に驚き困惑の色を浮かべた。
「ど、どうされたのですか？」
「素晴らしい、素晴らしいよクロウ！聞いてくれヴァラ。奴はバフォメットを倒してしまったよ」
「なっ！そんな馬鹿な」
「はははは！私もまさかここまでやるとは思わなかった。さすがだ……さすが私の作り上げた最高傑作だ！」
　恍惚の表情を浮かべ笑うヴィザリオの姿に、ヴァラは戦慄した。目が完全に悦に入っている。異常なまでの一番弟子への歪んだ愛情が満ち溢れ、それに酔っているようだ。
「な、ならば奴はここへ戻ってくるのでしょうか。バフォメットの首を持って」
「さあ、それはどうかな」
　高揚感がおさまったのか、ヴィザリオはいつものように斜めに座り、机に肘をついて手に顎を乗せながら粘着質な笑みを浮かべている。
「我らを欺き神父を手にかけなかった男だ、次は何をしでかすか分からぬ。ノルデンシェルド達の件も、奴が関係しているのかもしれんな」
　口ではそう言っているが、彼は実に楽しそうな顔をしている。
「ひとまず奴の事は置いておいて……城攻めの方はどうされますか？ノルデンシェルド達の手が無いとなると、外からの攻撃だけであの城を落とすのは難しいかと」
「どうでもいい」
「は？」
　予想外の言葉に、思わず聞き返してしまった。
「私はね、ヴァラ。今楽しくて仕方が無いのだよ。クロウ……私のかわいい弟子が一体どこまでやれるのか見てみたい。外に出ている者達を呼び戻せ。賭けをしようじゃないか。奴がその者達の壁を突破してこの部屋まで辿り着いたなら、私の勝ちだ」
「しかしそれでは」
「……ヴァラ」
　低く、落ち着いた声がヴァラの名を呼ぶ。だがその声色とは裏腹に、ヴィザリオは鋭い眼光を向けていた。
「私は、いつ、君に、意見を求めた？」
　途端に背筋が凍りついた。まるで蛇に睨まれた蛙のように、体が萎縮してしまっている。
「も……申し訳ありません」
　掠れた声を絞り出し頭を垂れたヴァラに、ヴィザリオは満足げな笑みを向けた。
<br />
<br />
<br />
　その頃、各地では元長老クラインの指示の元、穏健派に属するアサシン達が行動を起こしていた。
ヴィザリオの息がかかった有力者を拘束し、地方に散らばっているアサシン達の足止めをする。マリウスと共に国王の傍に残ったラスはアサシンが潜んでいそうな場所を挙げ、そこへ騎士団が踏み込んで身柄を拘束、もしくは無力化していった。
そうやってアサシンギルドに戦力が集中する事を避け、外側からじわじわと追い詰めていくつもりだ。
けれども潜伏場所が既にもぬけの殻であったり逃げられたりなどで、ギルド外部のアサシン達全てを排除する事は出来なかった。
それでも、マリウスのおかげで騎士団の力を借りる事が出来た為、予定より遥かに多くのアサシン達を捕らえる事が出来た。
「いっそこのままギルドに攻撃を仕掛けては？」
　騎士団の者が言うが、ラスは首を振って否定した。
「ギルド内部は複雑に入り組んでいます。慣れていないあなた達が行っても、返り討ちに遭うだけです。アサシンギルドは、アサシンにしか潰せないのですよ」
（そしてそれは、クロウがきっとやり遂げてくれる）
　窓の外に目を向けたラスは、クロウの無事を祈るように目を閉じた。
<br />
<br />
<br />
　斜陽の光を背にギルドの入り口に人影が現れたのは、呼び戻されたアサシン達が集い始めた頃だった。人影はゆっくりと足を踏み入れ、奥へと進む。彼の姿を見たアサシン達は思わず身を引き道を開けるが、その中の一人が後ろから飛びかかっていった。
辺り一面の壁を、床を、鮮血が染め上げる。一瞬の出来事だった。僅かに体を揺らしただけに見えたクロウは、その一瞬のうちにカタールを振るい、飛びかかってきた者を切り裂いた。血を噴き出しながら床に崩れ落ちる様を目にして、他のアサシン達が怯む。じりじりと、クロウが進むのと同じ歩調で後ろに下がった。その中から一人のアサシンが前に出て、短剣を弄ぶようにくるくると回す。
「何ビビってんだお前ら。聞いたぜ？こいつ目が悪いんだってよ。それにそんな片腕じゃロクに戦えねぇだろ？」
　言いながら、クロウの鼻先に顔を近づけ睨みつける。前を遮られ歩みを止めたクロウだったが、威嚇されたところで動じるはずも無く、
「なら試してみるか？」
　挑発的な笑みを浮かべるクロウに神経を逆撫でられたアサシンは、顎を引くと同時に持っていた短剣を下から上へ薙いだ。だがクロウは半身をずらしただけでかわし、鳩尾に膝蹴りを入れる。アサシンの体が吹き飛んだかと思いきや、背中に拳を振り下ろされ床に叩きつけられた。うつ伏せで呻くアサシンの頭を踏みつけると、クロウは顔を上げた。
「次はどいつだ」
　弾かれるように怒号を上げたアサシン達は、武器を抜き飛びかかっていく。そしてそのまま、刃の餌食となっていった。
クロウの動きは見た目には大雑把で、まるで降りかかる火の粉を払い除けるように右腕を振るっているだけだったが、そんな動きの前にアサシン達は次々と倒されていった。
ゆっくりと歩きながら迫る敵を退ける。前方から迫る雄叫びが、彼とすれ違った途端断末魔の叫びに変わった。背後から迫る刃を振り返りもせず避け、相手に反撃の間を与えずカタールを横に薙ぐ。圧倒的な力の差を見せつけられ愕然とするアサシン達だったが、彼らにも少なからずプライドがある。その場から逃げようとはせず、湧き上がる恐怖心を抑えてこの反乱者に襲いかかった。
　クロウは息も乱さず彼らを退けるが、数が多すぎた。今いる者達に加えて、騒ぎを聞きつけた者達が奥から次々と集まってくる。前方を塞がれ歩みを止めたクロウは、煩わしそうに眉をひそめた。
「たった一人に何を手こずっているのかしら」
　アサシン達の後ろから聞こえてきた声が、彼らを掻き分けて前に進み出た。歩くたびに、腰のベルトに挿したチェインが硬質な音を立てる。
プリーストの法衣を身に纏ったネヴァンはクロウの目の前で足を止め、腰に手を当て不敵な笑みを浮かべた。
「『死神の鴉』の名は伊達じゃないわね。それとも、他の奴らがだらしないと言った方がいいかしら」
「邪魔だどけっ。お前は俺達の支援でもしれてば良いんだよ！」
　突然現れたネヴァンに驚き動きを止めていたアサシン達は、彼女の言葉にざわめきいきりたつ。ベルトからチェインを抜いたネヴァンは、肩越しに彼らを振り返って肩を竦めた。
「本当の事を言ったまでよ。その程度なら、私一人で十分だわ」
　視線を前に戻しクロウを見上げると、彼は他のアサシン達と同じく怪訝そうな顔をしていた。それが無性におかしくて、ネヴァンはくすりと笑う。
「ここは私に任せて、あなたは先に行きなさい。こんなところで遊んでる場合じゃないでしょう？」
「……頼む」
　囁くように発せられたネヴァンの言葉に頷くと、クロウは疾風の如き速さで駆け出した。それを追ってアサシン達が踵を返したところを、ネヴァンの放ったホーリーライトが襲った。
「お前ッ！」
「悪いわね、あんた達をここから先に行かせるわけにはいかないの」
「貴様も裏切り者か！」
「裏切ってなんかいないわ。最初からそのつもりでここに来たんだから」
「聖職者ごときが俺達に敵うと思ってんのか？ひん剥いて存分に嬲ってから殺してやるよ」
　その言葉に、すうっと細められたネヴァンの目が鋭さを増す。
「戦闘に特化した聖職者を舐めんじゃないわよ。いらっしゃい坊や達。お姉さんとダンスを踊りましょう」
<br />
<br />
<br />
　教会に連れてこられたカイルは、以前大怪我を負い運び込まれた事がある部屋に案内され、体力が回復するまでそこで休むように言われた。だがフィリアの事が気になったカイルは部屋を抜け出し、ふらつく体を引き摺るようにしながら彼女の部屋へと向かった。
念の為扉を叩くと、少しして中から扉が開かれた。
「リーズ……」
　中から現れたのはリーズだった。彼女はカイルの姿を見ると血で汚れボロボロになった彼の服に驚き、やがてバツが悪そうに目を逸らしながらも彼を中へ促した。彼女がフィリアについていた事に半ば驚きつつ、カイルは中へ入りベッドの傍へ近付いた。
フィリアはまだ眠ったままで顔色も良いとは言えないが、規則的に上下する胸から察するに、もう心配は要らないだろう。あとは目覚めるのを待つだけだ。
「ずっと、ついててくれたのか」
「……他に、する事も無いし」
「そっか……ありがとう」
「…………」
　二人の間に、しばしの沈黙が流れる。
陽も落ちかけて部屋の中が薄暗くなってきたので、蝋燭に火を灯そうとリーズはカイルの傍にある棚へ足を向けた。
「……ごめん」
　カイルの後ろを通り過ぎようとした時、不意に発せられた声に立ち止まる。立ち尽くしたままのカイルの背中が微かに震えていた。
「約束、守れなかった。あいつを連れて帰るって約束したのに……ごめん。俺……」
　カイルは右手で顔を覆い奥歯を噛みしめ、自分の無力さとリーズに対する申し訳なさに打ちひしがれていた。そんな彼の姿に、しばらく黙って俯いていたリーズは彼の背に手をやると、そっと頬を寄せた。
「……あの子はどうしたの？」
「分からない……バフォメットにやられて気を失っちまって……気がついたら、あいつの姿が無かった」
「そう……。こんなボロボロになってまで、あの子を助けようとしてくれたのね。ありがとう。あの子は、良い友達を持ったわ」
「…………」
「きっと、生きてる。あの子は簡単に死んだりしないわよ」

　フィリアのベッドの傍に座ったまま眠ってしまったカイルの肩に毛布をかけ、顔にかかった髪を避けてやる。よほど体力を消耗していたのだろう。椅子に座らせたカイルは程無くうとうとし始め、ベッドにもたれてそのまま眠ってしまった。
その寝顔に思わず顔が綻ぶ。こんなに落ち着いた気分で誰かの寝顔を眺めていられるなんて何年ぶりだろうかと思う。元々童顔だが、眠っていると更に幼く見えた。
窓に近付き空を見上げる。彼女の心を表すかのように、淡い光を放っていた月が薄い雲に覆われた。
（……アサシンギルドに行ったんだわ）
　あの時のやり取りを思い出す。ギルドに飼われたまま一生を終えるのだと言った自分に、彼はそんな事はさせないと言った。そして別れ際のあの行動―――ギルドを、ギルドマスターを潰すつもりだとしか考えられない。いくら高い戦闘力を持つクロウでも、彼らを相手に勝つ事が出来るだろうか。バフォメットとの戦いで傷ついているのかもしれない。そんな体で、果たして生き残る事が出来るだろうか。
「クロウ……」
　俯き、ぎゅっと拳を握り締める。戦う事が出来ない自分でも、何かやれるんじゃないか。ここに来てからずっと自問していた事を再び繰り返す。
そして次に顔を上げた時、リーズの目には強い決意が宿っていた。]]></description>
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            <pubDate>Wed, 21 Mar 2007 09:02:36 +0900</pubDate>
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            <title>RO小説本編69話</title>
            <description>　絶叫が耳元を掠める。アサシンギルドの奥へと走っていたクロウは、行く先々に現れるアサシン達を片っ端から薙ぎ払っていた。
普段なら死なない程度に手加減するのだが、今のクロウにそんな余裕は無かった。バーサクポーションにより増幅された力の加減が出来ない事もあるが、一刻も早くヴィザリオの元に辿り着かなければならない。それにはいちいち彼らの事を気にかけている暇は無いのだ。
騒ぎを聞きつけたヴィザリオに逃げられてはまずい。アサシンギルド内でカタをつけなければ、この広いミッドガルド中を探さなければならなくなってしまう。
　そして彼が急ぐ理由は他にもあった。
バーサクポーションの効き目は三十分しかもたない。それまでに辿り着き、倒さなければ勝算は無い。効果が切れて痛覚が戻った体では、戦う事はもとよりまともに動く事さえ出来ないだろう。
　また一人、行く手を阻むアサシンを切り裂く。ヴィザリオの部屋はギルドの最下層。そこへ通じる階段を飛び降りる。真下にいたアサシンを蹴り倒して心臓に刃を突き立て、乱暴に刃を引き抜くとすかさず走り出した。
ヴィザリオの部屋まであと少しだ。角を曲がったところで天井から飛び降りてきたアサシンが放ったソニックブローをハイディングで避け、姿を現すと同時に首筋を切り裂く。
部屋の前には数人の警護がおり、クロウの姿を見つけると武器を引き抜き襲いかかった。それを流れるようなカタール捌きで薙ぎ払い、扉の前にいた最後の一人に刃を突き刺す。目を見開き恐怖に固まったアサシンが床に倒れると、クロウは扉の前に立ち、中の様子を伺った。
部屋の中は静かだ。けれども気配が無いわけではない。クロウはノブに手をかけ、用心しながらゆっくりと扉を開けた。
「待っていたよ、クロウ」
　クロウを出迎えたのは、奇襲ではなくヴィザリオの声だった。広い縦長の部屋の一番奥、細長いテーブルの向こう側に、ヴィザリオは顎の下で手を組み、いつもと同じように薄く笑みを浮かべている。その隣には一人のアサシン―――ヴァラとかいったか―――が立ち、鋭い目つきでこちらを見ていた。
「彼は無事辿り着いた。私の勝ちだな」
　ヴィザリオが彼を見上げ嬉しそうに言う。
「そうですね。こうも簡単に突破されるとは情けない……修練プログラムの改変が必要かと思います」
「だな、君に任せるよ。……さて」
　ゆっくりと視線をクロウに戻し、更に笑みを浮かべて問う。
「お帰り。約束通りバフォメットは倒したのかな？」
「どうせ一部始終見てたんだろう」
「はっはっ、気づかれてしまったか。確かに見ていたよ。まさか本当に倒せるとは思わなかったから、少々驚いた。で、首は？バフォメットの首が無ければ、我々が倒したという証明が出来ないのだが」
「置いてきた。今頃は他の奴らが回収してプロンテラに持ち帰ってるだろうさ」
「それは困るな。我々にはあれが必要だ」
「いや、あんたにはもう必要無いものだ」
　言い終わるや否や、テーブルを飛び越えヴィザリオの眼前に走り寄りカタールを突き出す。だがそれは左右から現れた者達によって阻まれた。すぐに後ろに飛び退き構え直す。新たに現れた二人の他にも四人、ヴァラも合わせて七人のアサシンがヴィザリオを守るように取り囲み、殺気を隠そうともせずこちらを見据えている。
「まだおいたをするつもりかい？クロウ」
　座ったままのヴィザリオは、余裕たっぷりの表情でこちらの反応を伺っている。だがクロウは眉ひとつ動かさず、その目に闘志を滾らせてヴィザリオを睨み返した。
「あんたを、殺す」
「無理だよ。彼らがいる限り、君は私に触れる事すら出来ない」
「なら排除するまでだ」
「利き腕を無くした君に出来るのかな？」
　ヴィザリオの言葉を聞き終える前に前に飛び出す。アサシンの一人も飛び出し、二人が左右に散った。前方から突き出された刀を受け止め睨み合う。左右から挟撃を仕掛けられたが咄嗟に跳躍しそれを避け、一人の頭を踏みつけ顔面をテーブルに叩きつける。凄まじい音を立ててテーブルが割れた。崩れたテーブルのせいでバランスを崩した一人の首筋を切り裂き、残る一人にカタールを振り下ろす。だが既に体勢を整えていたアサシンは後転して避け、着地と同時に飛び出した。
　激しい剣戟の音が鳴り響く。クロウと打ち合うアサシンの影からまた一人現れ、頭上から襲いかかった。半身をずらしてそれを避け、顔面を蹴り上げる。吹き飛んだ者と入れ替わるようにして別のアサシンが飛び込み、短剣を薙いだ。手首を捻り打ち合っていた刀を絡み取り跳ね飛ばすと、カタールの柄で前方のアサシンを殴りつけ新たに現れた者の方へ吹き飛ばす。揉み合って倒れた二人の背に刃を突き刺すと、一瞬体を跳ね上がらせて動かなくなった。
　カタールに付いた血を払い、ヴィザリオの方へ足を向ける。テーブルが壊れたせいで椅子から立ち上がってはいたが、依然として薄い笑みを浮かべてこちらを見ていた。
突然背筋を撫でるような悪寒を感じたクロウは、振り返ると同時に身を仰け反らせる。いつの間にか背後に回っていたアサシンが短剣を振るい、クロウの頬を掠めた。
「……お前がグラーヒか」
　全く気配を感じなかった。グラストヘイムについて来た時は、そうと分からせる為にわざと僅かに気配を発していたのだろう。そう確信出来るほど、今のグラーヒからは気配というものは全く感じられなかった。
彼は無言のまま、再び短剣を振るう。その動きは素早く一切の無駄が無い。攻撃を避け、時にはカタールで防ぎながら短剣の動きを見極める。次に繰り出された攻撃を腰を落として避けたクロウは一気に懐に入り込み、鼻先まで踏み込んだかと思うと更に体を落として足を払った。バランスを崩したグラーヒの体が前に傾くが、倒れこむ直前に手をついて飛び上がり、少し離れたところで着地した。グラーヒの体が僅かに右に傾いている。足払いの威力が激しく、左足を痛めていた。
　先に動いたのはクロウだった。彼は執拗にグラーヒの左側を攻め、追い込んでいく。グラーヒがクロウの攻撃を避けて一瞬背中合わせの状態になり、グラーヒは振り返ろうとした。だがクロウは後ろを向いたまま、低い体勢から真っ直ぐ後ろに蹴りを入れた。突き出されたクロウの足は振り返ったグラーヒの喉を直撃し、白目を剥いて後ろに倒れこんだ。クロウは傍に落ちていた刀を拾い上げると、倒れたグラーヒの胸に勢いよく突き刺した。
　残るはヴァラとヴィザリオのみ。二人の方へ近付いていくと、ヴァラがヴィザリオの前に出て腰に提げていた二本の剣を抜き、真っ直ぐに飛び出してきた。
こちらもやはり動きに一切の無駄が無い。得物が剣のせいかグラーヒよりは動きが大振りだが、速度は同程度だ。そして力強い。クロウの右肩口が裂けた。だが怯む事無くそのまま踏み込んだところをもう一本の剣が襲う。クロウはそれをカタールで受け止めたかに見えた。
「っ！」
　ヴァラは一瞬動きを止めた。確かにカタールは攻撃を受け止めたが、クロウの姿が消えている。持ち主のいないカタールが弾け飛ぶ。同時に、ヴァラの鳩尾を強烈な痛みが襲った。カタールから手を離したクロウがヴァラの体に拳を叩き込み、ヴァラはこみ上げてきた胃液を吐き出す。続けて顔を殴られ床に転がったヴァラに、彼が落とした剣が突きつけられた。咄嗟に姿を消したヴァラはクロウの背後に回るが、その時既にクロウの姿は無い。驚き気配を探ろうとした瞬間、後ろから心臓を一突きにされたヴァラは膝をつき、そのまま前に倒れ伏した。
　剣を捨て、カタールを拾い上げる。
自分が育て上げた特殊部隊を全滅させられたヴィザリオは、クロウが近づくごとに後ろに下がった。一歩、また一歩。やがて背に壁が当たり、それ以上後に引けなくなる。クロウは歩きながらゆっくりとカタールを構えた。
「止まれ！」
　どこからか叫び声が飛び込んできた。ヴィザリオの顔がニヤリと歪む。その瞬間、クロウの立っている床が抜け一瞬の浮遊感の後落下を始めた。
「くっ！」
　右腕を伸ばし、間一髪で床を掴んだクロウが下を見ると、膨大な量の剣が刃を上に向けて据え付けられていた。所々に白骨化した死体が突き刺さっている。
頭上で剣戟の音が聞こえた。何者かがヴィザリオと戦っているらしい。右腕一本で体を支えているクロウは、渾身の力を込めて肘を曲げ体を持ち上げる。何とか上半身を床の上に出すと、何者かに引っ張り上げられた。
「なんであんたが……」
　クロウを助けたのはヒューゲルだった。てっきりギルドの外で決起を仕切っているとばかり思っていたクロウは驚きを隠せない。
「指揮はクラインに任せてある。わしはわしの役目を果たしに来た」
　答えるヒューゲルの手には、二本の刀が握られている。ヴィザリオに向き直り刀を構えたヒューゲルは、鋭い眼光で睨みつけた。
「弟子の尻拭いは師匠がせねばな」
「ハッ、死にかけの老体が何を言う！大人しく穴倉で朽ちていけば良かったものを」
　同じように二本の刀を構えて対峙すると、二人同時に前へ踏み込んだ。
ヴィザリオはかつてヒューゲルから戦闘を学んだ。故に二人のスタイルはほぼ同じ。斬り込むタイミングも、癖も把握している。
ヴィザリオが刀を振るい脇が開いたところに、クロウが飛び込んだ。攻撃は防がれたが、ヴィザリオの動きの乱れに乗じてヒューゲルが懐に踏み込み刀を薙ぐ。脇腹を裂かれたヴィザリオが後ろに下がるがクロウが追い、カタールを振るう。その間に後ろに回ったヒューゲルが、ヴィザリオの首めがけて刀を繰り出した。
「ヘルバード！」
　突然ヴィザリオが叫んだ。次の瞬間、天井から舞い降りてきた影がヒューゲルの右腕を切り裂き、よろめいた彼の頭を抱え込んでその首筋に刀を当てた。
「冷や冷やさせるなよ、兄貴」
　ヴィザリオに良く似た笑みを浮かべながら、ヘルバードはヒューゲルを抱える腕に力を込める。
「残念だったなジジイ。おいクロウ、武器を捨てな。じゃないとジジイの首が飛ぶぜ」
「構うなクロウ、早くヴィザリオを……っぐ！」
　首を絞められ苦しそうに顔を歪ませるヒューゲル。奥歯を噛みしめヘルバードを睨みつけていたクロウだったが、突然体中を襲った激しい痛みによろめいた。
（ポーションの効果が切れたか……ッ！）
　左腕を、胸を、体中を、忘れていた痛みが押し寄せる。様子が変わったクロウを見ていたヴィザリオがハッとして目を見開いた。
「まさか、貴様……バーサクポーションを使っていたのか。どうりで……」
　クロウの顔が苦痛に歪む。正直立っているのがやっとだった。だがそれを悟られないように、二人を睨みつける。
「……やはり年には勝てぬのう。お前ごときの奇襲で負傷するとは、我ながら情けない」
　自嘲するように笑い、ヒューゲルは落ち着いた口調で語る。頬を引きつらせたヘルバードが何か言おうと口を開きかけた時、ヒューゲルは自らヘルバードの刀に首を押しつけた。
「なっ！」
　驚き刀をどけようとするが、もう遅い。ヒューゲルは首を押しつけたまま横を向き、裂けた傷口から鮮血が噴き出した。
「ヴィザリオ相手に使うつもりだったが……まあよかろう。弟を、貰っていくぞ」
　そう言いヘルバードの腕を掴んだヒューゲルはクロウに目を向け、柔らかな眼差しを向ける。
「……生きろよ」
「離れろヘルバード！」
　ヒューゲルの手を振り払い、後ろへ逃げようとしたヘルバードの背でヒューゲルの体が爆発し飛び散った。同時にその一帯に毒が蔓延し、クロウとヴィザリオは咄嗟に腕で顔を覆ったが、毒と肉片をまともに受けたヘルバードは目を剥きその場に蹲った。
「う……ぐがっ！」
　体は痙攣し、脂汗の滲んだ顔は蒼白だ。
「既に自ら毒を盛っていたとは……」
　してやられたといった感じで、ヴィザリオが舌打ちする。そんな彼に救いを求めようと、ヘルバードは蹲りながら腕を伸ばした。
「兄貴……助け……助けてくれ……っ。解毒が、効かねぇっ」
「奴が使ったのは特殊な毒だからな。クロウを捕らえろ。そうしたら助けてやる」
　ヴィザリオの言葉を聞き、掴んだ刀を支えに立ち上がったヘルバードは、引きつった笑みを浮かべながらクロウに向かって駆け出した。
「クロオォォォウ！」
　滅茶苦茶に振り回される刀を必死で避ける。動くたびに体中が悲鳴を上げた。振り下ろされた刀をカタールで受け止めると、刀は折れ、刃が後ろに飛んでいく。ヘルバードは折れた刀を投げ捨てると、クロウの首を掴んでそのまま壁に押し付けた。
「がは……っ」
　押し付けられ持ち上げられたクロウは、必死で息を吸い込む。だがヘルバードの手には更に力が込められ、クロウの首を締め上げる。
「やった……やったぞ兄貴！クロウを捕まえた！」
　狂喜に震えたヘルバードの声が裏返る。そんな彼の後ろから近づき、「良くやった」と褒めたヴィザリオは、持っていた刀でヘルバードの体を貫いた。
「―――っ！」
　ヘルバードの体を突き抜けた刀は、クロウの腹をも貫いていた。血を吐き、ゆっくりと振り向いたヘルバードの顔は驚愕と絶望の色に染まっている。
「兄、貴……」
「私の弟だというだけで好き放題やらかすお前は目障りだったよ。でもまあ、最後は役に立ったかな。だから、毒の苦しみから救ってやろう。嬉しいだろう？」
　刀を握る手に力を入れ、更に深く突き刺してから一気に引き抜く。ヘルバードは床に崩れ落ち、クロウもまた、壁を背にしてその場に座り込んだ。
「さて、残ったのは君と私の二人だけだが……どうしたものかね」
　刀を肩に乗せながら、口の端を上げクロウを見下ろす。彼は俯き、肩を上下させて苦しそうに息をしていた。
「まさかバーサクポーションをもその身に受け入れるとはね、さすがに驚いたよ。やはり君は……君の体は素晴らしい。どうだ？私の元へ戻ってこないか？」
「……断る」
　答えた瞬間、先程貫かれた腹の傷に再び刀が差し込まれた。手首を捻り傷をえぐると、ヴィザリオは再び問う。
「戻ってこないかい？」
「……こ、とわると……言った……ッ」
「そうか。ならば死ね」
　刀を引き抜き後ろへ下がると、ヴィザリオは腕と水平に刀を構える。そして一歩前へ踏み込むと、刀を突き出した。
「！」
　その時、二人の間に飛び込んできた者がいた。刀はクロウではなくその者の背に突き刺さる。
その者はがっくりと膝をつき、クロウに覆い被さるように倒れこんだ。
「ネヴァン、貴様！」
　ネヴァンの体は既に傷だらけだった。あれだけのアサシンを相手にしたのだ。無傷でいられるはずも無い。
「ちゃんと、なさい……。ここで死なれたら、私が、困るのよ」
「何、やってんだ。さっさと逃げろ」
「どのみち、こんな体じゃ……もたないわよ」
　言いながら、ネヴァンは振り返る。彼女の目には既に事切れたヘルバードの姿が映っていた。
「私がここに来たのは……こいつに、妹を殺されたからなの。いつか、こいつを殺そうと思って……。ヘルバードは死んだ……けど、マスターがいる限り、また同じ事が起きるわ……だから」
「貴様っ！」
「キリエエレイソン！」
　再び刀がネヴァンの体を貫く。だが光の壁に阻まれて、刀はクロウには届かなかった。
「っ……私の、残りの力を全部あげる。大して残ってないけど……動けるようには、なるはずよ。だからあなたは、マスターを……」
　クロウを抱きしめるネヴァンの体が淡い光に包まれた。光はクロウをも優しく包み込み、体を癒していく。だが―――
「やめろ！そんな事したら、あんたの体が……」
「良いのよ。私が消えても……想いはあなたに受け継がれる……」
　人の持つ魔力は、生命力を糧とする。魔力が完全に尽きる時、生命力は失われ体の維持すら出来なくなってしまう。
微笑みかけるネヴァンの顔が、体が徐々に透き通っていく。
そしてその微笑が消える直前、微かに彼女の声がクロウの耳に届いた。
「フィリアを……あの子をお願いね」
　光が消えた後、クロウを抱きしめるように法衣だけが残されていた。クロウは震える手でそれを掴み、顔をうずめる。まだ温もりが残っていた。まだ、彼女の香りが残っていた。
「フン、愚かな女め」
　吐き捨てるように発せられた言葉に反応し、クロウは顔を上げた。その目は鋭く激しく光り、怒りを湛えている。法衣から手を離したクロウはゆっくりと立ち上がった。
　立てる。まだ動ける。まだ戦える。
カタールを握る手に力がこもる。クロウの発する怒気に気圧され後退ったヴィザリオだったが、気を取り直して刀を構え、笑みすら浮かべて前へ踏み込んだ。</description>
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            <pubDate>Thu, 03 May 2007 22:03:31 +0900</pubDate>
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            <title>外伝第1章 33話　</title>
            <description>　階段の上からは荒れ狂う吹雪の音や、虚空の彼方から召喚された隕石が落ちる音や武具を打ち合う音などの各種様々な破壊の音が大きく響き渡っている。階段の上にはまだ誰も上がってはいないのだが、剣や槍の音が微かに聞こえるのはクローキングやトンネルドライブを警戒して振り回しているからだろう。
　ここはブリトニアに遥か昔に建築された遺跡でもある砦のうちのひとつ、Knights of the Roundが城主として認められている砦だ。
「メテオストーム使っても砦の構造材にゃ傷ひとつ付かないってのも不思議なもんだな…」
「失われた技術だからな。遺失技術を研究してる連中がいつか解明してくれるだろうさ」
「俺達が生きてる間に解明できんのかね」
「ま、無理なんじゃね？」
　階段の真下から少し離れた場所でエミリオとミゲルが軽口を叩きあう。エミリオは常にルアフを使い、ミゲルも同様にサイトを使用し誰も隠れる事ができないよう警戒している。そしてその背後に集まっているLostEdenとOverDoseのギルドメンバー達も常に周囲を警戒している。
　階段の最上部から階下へと続く通路は、白く輝くランドプロテクターで覆われていた。この魔法のおかげで地面を基点にして唱えられるストームガスト等の大魔法を防ぐ事ができる。ここに来た最初の頃、階段の上からKnights of the Roundのウィザードが大魔法を撃とうとして来ていたが、常にランドプロテクターが張られているのを確認してからは、騎士やクルセイダーがこちらの様子を見に来る程度だ。
　そしてブランディッシュスピアやボーリングバッシュの一撃離脱戦法をしてきた騎士も数人いたが、阿修羅覇王拳やストーンカース等を用い戦闘不能寸前までに追い込み既に捕縛している。戻って来ないメンバーがいるためか、先程から階段上からの突撃は無くなっている。
「ただいまっと」
　何も無い空間から姿を現したラージャが挨拶をする。トンネルドライブを使い階段上の様子を偵察してもらっていたのだ。
「ロキの叫びの様子はどうだった？」
「ん、ロキの叫びは60秒間隔できっちり最後まで歌ってるわ。再使用までのタイムラグは長くても5秒ぐらいね」
「ロキ演奏者の周囲の様子は？」
「もう大魔法の嵐も嵐、大嵐よ。これが無かったら砦の外に何度放り出されているか分かったもんじゃないわ」
　そう言いながらラージャは手に持った盾を叩く。
「すまん、聞きたかったのは護衛の戦士の数なんだ」
「あ、それは二人しか居なかったわ。と言うか二人にまで減った、と言うべきかしらね」
「戦闘スタイルはどんな感じだった？」
「速い動きが得意そうには見えなかったわね。まず間違いなく耐えて力任せの一撃を決めるタイプよ」
「それじゃあ、肝心の質問だ。演奏者のダンサーはどんな感じだった？あとバードの頭装備も。それと見えた範囲内に他のダンサーはいたかどうかだ」
　ロキの叫びを演奏するには、バードとダンサーが必要になる。バードには男性が、ダンサーには女性がなる職業だ。そして、Knights of the Roundの悪行は女性に向けられている。だがロキの叫びを演奏するには女性であるダンサーが必要になる。協力しているのは何かしら理由があるのかもしれないとエミリオ達は考え、実際に演奏している者を見てどうするか決めようと判断した。
　金で雇われているとすれば、悪行を知っている知らないに関わらず、同じ冒険者として腕を競い合えばいい。
　悪行に加担しているのならば捕らえればいい。
　だが、無理矢理協力させられているとするなら…。
「ダンサーはまず間違いなく、無理矢理協力させられているわね。目隠しは暗闇対策としても、首と手首、足首に傷痕があったわ。おそらく逃げ出さないためにつけた首輪に手錠、足枷の痕でしょうね。バードの頭には猫が載せてあったわね。他にダンサーは見えなかったから演奏者一人だけだと思うわ」
　その言葉にミゲルは分かった頷いた。
「それじゃ次の段階に移ろう。エミリオ、カイン、アラン準備してくれ。狙うのはバード一人だけだ。ラージャはロキの叫びが切れるタイミングで階段上から石を投げて合図してくれ。それに合わせて仕掛けるぞ」
　ミゲルの言葉に三人が頷いたのを確認してからラージャは再び姿を消し階段を上っていった。四人はタイミングよく突入するためにもラージャからの合図に全神経を集中する。少しでもタイミングを外せばロキの叫びが再び使用され、何も出来ずに大魔法にその身を痛めつけられてしまう事になる。そうなれば砦の外に放り出されるか、今待機している階段下にまで痛む体を押して避難する事になってしまう。そのため本来なら支援魔法をかけるエミリオも他のプリーストからブレスや速度増加の魔法を貰っていた。
　合図と思われる石が階段の上から投げられ壁に当たりカツンと音を鳴らす。音を聞いた瞬間四人は勢いよく走り階段を駆け上がり、すこし開けた踊り場に出る。そこはロキの叫びが展開されており、力場の中心にバードとダンサーが立っている。ペコペコに乗っていたミゲルが一番早く到達した瞬間、展開されていた力場が消失した。演奏時間でもある効果時間が切れたのだ。
　そしてミゲルはバード目掛けて槍を勢いよく突き出す。その槍には、メタルラと呼ばれる砂漠に住む昆虫のバッタが直立したような姿をしている魔物の魔力が込められたカードが挿し込まれた槍だ。効果は一定時間の間沈黙させる効果がある。当然のごとく、沈黙されてしまえばロキの叫びを演奏する事が出来なくなる。ミゲルはそれを狙っているのだ。
　気合を入れてバードを殴るミゲルだが、口から出るのは気迫の声でも雄叫びでも無く、
「いってええええええええ！！！！！！！！！！」
　その身を激しく打ちつける魔法の数々に対する心からの叫びだった。
　ミゲルが一撃をバードに加えニ撃目を入れようとする頃に残りの三人も到着し、エミリオはミゲルと同じく沈黙を与える杖でバードを打ち据え、カインとアランはバードが身に付けている楽器を奪おうとする。しかし楽器は奪えず、沈黙も与えられ無かったようだ。それを見た護衛役と見られるブラックスミスと騎士が慌てて向かってくると同時に再びロキの叫びが展開され、それを見た四人は階段下目掛けて一目散に逃げ出す。その背中を吹雪が打ち据えるが四人の意識を奪う事も無く、追撃してくる者もいなかった。
「よし、次行く準備を」
　四人はヒールを大量にかけられ傷を癒されていくと同時に、再び突撃するために呼吸を整え合図を待つ。再び合図がでると同時に突撃するもバードを沈黙させる事も楽器を奪う事もできなかった。
「コーティングはまだされてなかったが、楽器狙いなのは気づかれたと思う。このままだとロキの切れ間にされる可能性があるぞ？」
「されたらラージャが教えてくれるさ。今は向こうの目をこっちに向ける必要があるからな。結果が良いのが一番なんだが今は地道に続けるぞ」
　ミゲルの言葉に三人が頷くと同時に上で見張っていたラージャが姿を現した。
「アルケミストが前に出てきたわ。今言っていたみたいに武器にコーティングをかけるつもりみたいよ」
「む…。じゃあ次がラストチャンスになりそうだな。コートをかけられたらやり方を変えるしかないか…」
　ラージャは用件を伝えるだけ伝えるとまた上に戻っていった。
「ま、次やってから考えようや。何事も予定通り行くとは思っていないんだろ？」
「まあな」
　エミリオの問いにミゲルは笑って答えた。そして再び突入するために四人は合図を待つ。
「うおりゃああああああああ！！！！！！」
　気合を入れてミゲルが叫びながらペコペコを走らせ、バード目掛けて突撃をし、少し遅れながらエミリオ、カイン、アランの三人も突入した。そして大魔法が吹き荒れるなかバードに近づき、護衛の戦士の攻撃をかわしバードの武器を奪おうと、沈黙させようとする。
「ようし！取ったぞ！」
　吹雪が吹き荒れる轟音の中、アランの声がはっきりと聞こえたのは気のせいではなかった。アランの手から流し込まれた魔力の影響で、バードは持っていたバイオリンを取り落としていた。慌てて再び握ろうとしているが魔力にはばまれ握る事が出来ない。それを確認すると次の段階に入るために四人は階下に向かって走る。
「やったぜ！アラン！」
「任せとけってんだ！」
　階段下に戻ってきたカインが両手を上げてアランと手を打ち合い喜びを分かち合う。
「よし、ミゲル次は…って、どこいった？」
　エミリオが指揮を取っているミゲルを探すが見当たらない。ペコペコに騎乗しているナイトは大きいため視界の隅にでも入ればすぐ気づくものなのだが、何処にも見当たらない。
「まさか…砦の外に放り出された…？」
「そのまさかよ。エミリオ達の後に続いて戻ろうとしたらブラックスミスに一撃もらって足が止まって、そこに隕石が来たら姿を消してたわ」
　いつのまにか階段上から戻ってきたラージャがミゲルが砦の外に放り出されたのが間違いないと言う。
「と、取り合えず打ち合わせ通り次に移るしかないか…？リネアそれでいいよな？」
　そう言ってエミリオは手にしていた盾をリネアに渡し、ラージャもリオーネに渡す。
「はいはい、指揮官がいないけどそうするしか無いわ。でないと絶好のチャンスを逃しちゃうからね。ったくあの馬鹿タレ…。肝心な時に放り出されるなんて戻ってきたら一発気合入れてやんないと」
「急いで戻ってくれば一分はかからないでしょ。それまでに私たちがやるべき事は魔法地帯を荒らしに行く事。それ以外は無いんでしょ？」
「そうね…。あたしたちが今から行くから魔法の音が消えたら全員突撃して頂戴。馬鹿タレが戻ってくるまでに支援は全員に回しておいて」
　リネアはそう言うとリオーネと共に各種の支援魔法をかけられその場から姿を消した。
「さーて全員覚悟決めて突っ込むとしますか…」
「砦の外に放り出しても他の人達が捕まえてくれますしね。手加減しないで戦えるのはありがたい事です」
「どんな風に捕まえるのかは知らんがな…」
「捕まえた後なんかは知りたくもないですね…」
　当初の予定ではKnights of the Roundのメンバーは、砦の外に放り出されない程度に無力化し捕らえるつもりだった。それがかなりの難題だったのでサイモンに提案し、砦の外に放り出されたKnights of the Roundのメンバーを捕らえて欲しいと協力の提案したのだ。
　サイモンは少しの間だけ思案した後に了解してくれた。捕まえたらそのまま天罰を与えられるしねと楽しそうに言っていたので、実益が多い方を取ったのだろう。念のためにどれぐらいの人数がいるかと聞いたら、LostEdenとOverDoseの全メンバーを足してもまだサイモン達の方が多いと言っていた。世の中には知らかった方が幸せだった事もあったんだな…とミゲルが呟いていたのが深く印象に残った。
　さらにラージャにカインとアランが苦労して探してきた被害者の女性のギルドメンバーや元仲間だった者達の中からギルドとしてではなく、個人として協力したいと申し出てくれた者達がいた。
　被害を受けた本人も手伝うと言った強い女性もいた。
　砦の外にいてKnights of the Roundのメンバーを捕らえる為に待機している者もいれば、砦の中でLostEdenとOverDoseに加わり戦っている者もいる。
　たとえ協力する理由が、友に仲間に恋人にされた仕打ちに対する復讐だとしても、今はKnights of the Roundに対抗する仲間となってくれている。
　最初は小さな灯火だったはずだ。
　だが次第に灯火は集まり、より大きな火となった。
　そして今ではさらに大きな炎となり、Knights of the Roundを飲み込み燃やし尽くす業火となりつつある。
　Knights of the Roundの最後の刻が近づきつつあった。</description>
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            <pubDate>Wed, 23 May 2007 23:22:04 +0900</pubDate>
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            <title>外伝第1章 34話　</title>
            <description>「すまん！油断した！」
　ペコペコに乗ってミゲルが謝りながら階段下まで進んでくる。顔を多少顰めていると言う事は完全に癒されていないのかもしれないが、指揮を取っているためと楽器を奪えた事を覚えていたために急いで戻ってきたのだろう。
　しかし誰もミゲルに声をかけなかった。全員が階段上に意識を集中しており、ミゲルに対してヒールの魔法が飛んでくるだけであった。
　戦況は既に進展し、終局へと向かっている。

　リネアとリオーネは、ブランディッシュスピアやボーリングバッシュ、アローシャワーが集中していた一番危険な場所をかけられていたキリエレンソンのおかげで、何とかウィザード達が集中している場所まで見つかる事無く辿り着けた。後はここで暴れ魔法を打つ暇を与えないようにするのみ。そして防衛ラインをズタズタにして乱戦に持ち込むまでここに留まる事。
　ブラギの詩を演奏するバードを中心にして、プリースト三人とモンクが一人、そしてウィザード達が多数。対してこちらはナイトが二人のみ。後方からの援軍と支援を得るには全て二人の行動にかかっていた。
「いやああああああ！！！！！！」
「はああああああああ！！！」
　二人は雄叫びと同時にクローキングで隠していた姿を現し、槍を大きく振り回しブランディッシュスピアをウィザード達に浴びせる。突然の出来事に誰も避ける事は出来ず状態異常能力が付与されている槍をその身に受ける。
「どっから沸いて来やがった！」
「早く排除しろ！魔法が止まっちまうぞ！」
　慌てたKnights of the Roundのバードとプリーストが言うが、ウィザード達は喋れなくなっている者や意識が軽く飛んでしまっている者もいるようで魔法を即座に唱えられそうな者はいなかった。
「モンクをやる！」
「お願い！」
　リオーネは槍の一撃を受け倒れてしまっていたモンクが慌てて立ち上がったのを見て、阿修羅覇王拳を撃たれる前に排除しようと槍を上段に振り上げ気合を込めて連続で振り下ろす。プリーストからヒールをもらってはいたが、リネアも同時に暴れているため他にもかけるべき対称が多く、次第に体力を削られモンクはその姿を消した。
「こいつら魔法が効かねえぞ！」
「オブ・デフか！？こいつらが持ってるなんて聞いてねえぞ！！」
　ユピテルサンダーやストームガストなどの魔法を二人に決めようとしたが、何度やっても魔力を帯びた吹雪や電光が二人に辿り着く前に霧散してしまい気がついたようだ。
　オブ・デフ。
　黄金蟲カードが挿された盾につけられる称号。
　黄金蟲とは、プロンテラの地下下水の最下層エリアに極稀に突然変異で産まれる黄金色に輝く蟲だ。普段は大人しいが一度暴れだすと手が付けられない程の凶悪な力を秘めている。そのため定期的に地下下水の調査が行われ、黄金蟲が産まれていれば討伐隊が組織されている。そしてその黄金蟲の魔力が込められたカードが挿された盾には魔法による魔力が無効化される特性を持っている。
「阿修羅か脱がし早く来い！」
　慌ててバードは前線に離れているメンバーに言うと同時にロキの叫びの演奏者の方に視線動かすと、床が光輝くランドプロテクターに覆われた。

「よし！行くぞ！」
　静かに待機していたLostEdenとOverDoseのメンバーは階段の上から大魔法の轟音が聞こえなくなったのを確認すると一斉に突撃を開始した。
「光の防壁！輝く障壁！魔力の遮断を！ランドプロテクター！」
　階段を上がったクリアはロキの叫びを演奏していた床を基点にランドプロテクターを唱えると、階段の下へと広がっていた白い輝きが消え階段上に新たに広がる。これでこの床を基点にした魔法は唱える事ができなくなった。後は自分がやられないようにクリアは後方に下がろうとする。
「早くそのセージを落とせ！」
　Knights of the Roundの誰かが叫び、その指示にモンクが反応した。既に前衛職達が乱戦を始めているその中を残影で一気に距離を縮めクリアの眼前に辿り着く。しまったと思い慌ててディスペルを唱えようとするがモンクの方が一瞬早い。
「阿修羅…」
「甘いんだよ」
　いつの間にかモンクの横にエミリオが立っており杖で素早く一撃を与え阿修羅覇王拳の発動を邪魔する。その僅かな間を手に入れクリアはディスペルを唱え終わり、モンクの体から溢れかけていた魔力を霧散させる。
「集いし魔力、霧散せよ。ディスペル！」
「ック！」
　慌てて阿修羅覇王拳を撃つための準備を始めたモンクの体に矢が二本同時に連続して何度も突き刺さりその姿を消す。
「クリアは下がってくれ」
「了解」
　エミリオに言われランドプロテクターを維持するためにクリアは返事をして後方に下がろうと移動する。その時モンクに対してダブルストレイフィングで近距離からの援護射撃をしたセリエルに礼を言う。
「ありがと」
「どういたしまして」
　脇を通り過ぎる時に手を打ち合う二人の背後で轟音が響いた。

　Knights of the Roundに対して協力を申し出てくれたモンクが、ロキの叫びの演奏者であるバードに阿修羅覇王拳を撃ちこみバードを砦外に放逐した。これでロキの叫びが再び使われる事はおそらく無いだろう。
　バードを落としたモンクは懐から素早くイグドラシルの種を取り出して口に放り込み、噛み砕き飲み込む。すると阿修羅覇王拳を撃った際に失われた魔力がその体に再び溢れてくる。そして再び阿修羅覇王拳を撃てる状態に移行し、また種を飲み込んだ。
「高価な物使ってますねぇ」
「…復讐できるなら安いもんさ」
　ルースが声をかけるとモンクは恨みを混めた声で返事をし、次の獲物を求めて乱戦の中に飛び込んでいった。
「これは後が大変かもしれませんねぇ…」
　そう呟きルースは、Knights of the Roundのダンサーに対峙して声をかける。
「すいませんが、早めに終わらせたいので叫ばないで貰いたいのですが、お願いできますか？」
　目隠しをして鞭を構えていたダンサーは驚いた用に反応するが、すぐに首を左右に振る。
「…無理よ。叫ばなければ攻城戦が終わった後に何をされるか分かったものじゃないわ…」
　彼女は砦の外に放り出されたKnights of the Roundのメンバーが戻って来ないのは、妨害されているからだと思っているのだろう。それは当然の考えなのだが、今回はKnights of the Roundを潰すために砦の外で次々と捕縛されている事を彼女は知らない。だがそれを今説明しているだけの余裕は無い。なのでルースは強行手段に出る事にした。
「ではすいませんが、暫く僕に付き合ってもらいますね」
「え？」
　ルースは仕方が無さそうにそう言うと、ダンサーに一気に近づいて壁に押し付け右手で口を塞ぎ左手で鞭を持った手を押さえる。やんわりとしたルースの雰囲気に、攻城戦の最中である事をダンサーは忘れかけていためにあっさりと接近を許してしまった。そしてルースは顔を寄せてダンサーに早口で語りかける。
「今戦況は僕達が有利に進めているんです。このまま順調に進めばあなたを解放する事ができます。説明は長くなるので今は言えませんがお願いですから今はこのままじっとしていて下さい」
　壁に押し付けられた拍子にダンサーのつけている目隠しがずれ、ルースと目が合う。ルースの目を真っ直ぐに見つめれば、ダンサーには真剣に頼んでいるように思えた。攻城戦では自分も即座に排除され砦の外に放り出されるのが普通なのに、今回の相手はしてこなかった。そこからも何か作戦でもあるのではとダンサーにも想像はできていた。だがそれが自分を、Knights of the Roundから解放してくれるという事ならば自分を狙ってこなかった理由には十分なるのではないかと思った。
　少しの間だけダンサーは考えてから小さく頷いた。どんな理由と状況があるのかは知らないが、捕われの身となっている自分が自由になれるのならば今は彼らを信じるしかない。
　返事をしたダンサーの絶望しか知らない目に、僅かながらも希望が蘇ったのかもしれない小さな輝きがルースには見えた気がした。
「…ありがとうございます」
　ルースが礼を言うとダンサーは慌てて首を左右に振るが、むしろ礼を言いたかったのはダンサーの方だった。安心したようにルースがふうとため息をつくと思い出したかのように小声で話し掛けてきた。
「あ、あと、演技でもいいから抵抗する振りもしてもらえませんか？でないと僕もあいつらと同じ事をしているような気がしてしまうので…。あ、でも抵抗されても同じような…」
　そう言ったルースは本当に困ったしまったかのように首を傾げて悩んでしまっていた。その姿にダンサーは今の状況も忘れ噴出しそうになってしまった。
　ナイト達を中心とした前衛職達による乱戦が繰り広げられている後方で聖なる十字の光が炸裂した。

「おらおらおらあ！さっさと道空けろお！」
　叫びながらミゲルは大きく槍を振り回しKnights of the Roundのメンバーに打撃を与えるが、同じように相手も槍を振り回してこちらにも同程度の打撃を与えてくる。その乱戦の真っ只中に後方からKnights of the Roundのハンター達がアローシャワーを浴びせ前進させまいとする。早くここを突破しリネア達の援護に向かわなければ大魔法が復活する可能性もある。大魔法を乱戦の場所に撃ち込む事ができるのならば、有利に進める事ができるのだがランドプロテクターを張っているためそれはできなかった。前衛達の数は互いにほぼ拮抗しているが、後方からの弓の援護の数で勝っているKnights of the Roundの方が有利な展開になっていた。
　リネア達二人が暴れている場所では、Knights of the Roundのバードが砦外に離脱しているがプリースト三人がサンクチュアリを張っているため、ウィザード達は魔法が撃てない状況ではあるが戦線離脱する者はいない。そして援護に来たローグが武具を外そうと、モンクが隙を見て阿修羅覇王拳を撃ち込もうと隙を狙っているが、リネアとリオーネは互いをカバーしあいかろうじて持ち応えているものの戦線は膠着状態になりつつあった。
　乱戦の中からカークスが後退してきてエミリオに声をかける。
「突破してハンター達を落とします。シェンナも準備を」
「あいよ」
「仕方が無いわねぇ」
　エミリオとシェンナはカークスの意図をすぐに察して、エミリオは支援魔法を、シェンナはエナジーコートを唱え杖を持ち替える。そしてカークスは精神を集中して詠唱を始め二人に魔力の糸を伸ばしていく。
「彼の者と我を繋ぎ、彼の者の痛みと苦しみを我に伝え、彼の者の為に我が身の全てを捧げん。ディボーション！」
　詠唱の終了とともにカークスの体から光の糸が伸び、エミリオとシェンナに結ばれた。これによって二人が受ける痛みや衝撃は全てカークスが負う事になる。
「さ、行きましょうか」
　これから乱戦の真っ只中を突破するというのに、まるでどこか近くの店まで買い物に出掛けるかのように軽く言うカークスに懐かしく思ったエミリオは素直に感想を言う。
「昔を思い出すねぇ」
「なんならこの騒動が終わったら昔みたいに魔物相手に出掛ける？」
「暇があったらな」
「考えておいてくれると助かるよ。じゃ、行くぞ！」
　互いに半分本音が混ざった軽口を叩き合った後、カークスが合図となる盾を掲げて乱戦の中に突撃して行き、その後に二人が続いていく。横合いからカークス目掛けて槍が突き出されるが盾を使って捌きつつゆっくりとだがしっかりとした足取りで進む。その横をエミリオが素早く通り抜けようとすると、そうはさせないとばかりに斧が振り降ろされるが盾でうまく受け流して前へ進む。その時の衝撃はエミリオには伝わらずに魔力の糸を通してカークスへと伝わり、カークスの動きが一瞬止まる。エミリオの横、と言うよりは下を殆ど四つん這いになって転がるようにシェンナが走り抜けようとする。その背中目掛けて多数の矢が降り注ぐが、キリエレイソンとディボーションで全て防ぐ事ができたようで一番最初に乱戦の中を突破する事ができた。
「エミリオ！」
「整然なる速き魔力の流れを！サフラギウム！」
　乱戦を突破する事が出来たシェンナの姿を捉えたカークスの声に、即座に反応したエミリオはサフラギウムをシェンナにかける。
「氷雪の魔狼！凍える息吹！極寒の嵐をここに！ストームガスト！」
　サフラギウムをその身に受けたシェンナは、魔力の流れが普段以上に速く詠唱を完成させハンター達の中心にストームガストを炸裂させる。詠唱速度を優先したためそこまで魔力は高くはなかったがこの一撃でハンター達はかなりのダメージを負ったらしくニ名が姿を消し、残った者もポケットから白ポーションを取り出し傷を癒そうとして矢の雨が一時的に弱まった。
　シェンナは後ろを振り向きざまに乱戦の中を何とか突破してきたカークスとエミリオの後ろ、ランドプロテクターが張られていない場所にファイワウォールを立て続けに張り追撃されないようにする。そしてエミリオはサフラギウムを再びシェンナにかけ、カークスにも続けてかけた。再び炸裂したストームガストによりさらに一名ハンターが姿を消すが、まだ三名残っていた。そしてその三名のハンターの中心にいつの間にかカークスが辿りついていた。
「聖なる裁きの光よ！眼前の敵を撃ち払いたまえ！グランド・クロス！」
　詠唱が終わると同時にカークスを中心にした大きな十字架の審判の光が炸裂し、残っていたハンター達もその姿を消した。</description>
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            <pubDate>Mon, 11 Jun 2007 11:02:05 +0900</pubDate>
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            <title>RO小説本編70話</title>
            <description><![CDATA[　薄暗い室内に剣戟が響いた。次いで足を擦る音、短く息を吐く声。
時折火花が舞い散る。刃と刃の激しいぶつかり合いが続いた後、互いに飛び退き距離を保った。
肩で息をしながら、クロウは向かいに立つヴィザリオを見据える。だがその視界は時折ぼやけ、正確に捉える事が出来ない。
バーサクポーションのおかげで視力を保っていられたのだが、効果が切れてからというもの目の症状が顕著に表れていた。今は騙し騙し動いているが、戦いを長引かせてはこちらが不利になる。そう考えたクロウは再び飛び出し、カタールを振るった。
速く、力強い攻撃がヴィザリオを翻弄する。右手の刀を弾き飛ばし、突き出したカタールを左手の刀が受け止める。ヴィザリオがそれを押し返すと後ろに飛び退り、即座に前へ出た。
ヴィザリオが空いた右手を懐へ入れる。そして再び抜かれた手には、黒い金属製のものが握られていた。
「―――ッ！」
　頭より先に体が危険を感じ、咄嗟に足を止める。だが次の瞬間耳をつんざくような轟音と共に、クロウの胸の中心に鋭い痛みが突き抜けた。
吹き飛ばされたクロウの体が床に転がる。ヴィザリオの握る金属製の筒の先からは煙が立ち昇り、その威力に感心すると高らかに声をあげて笑い出した。
「素晴らしい！これほどのものを作り出すとは奴らもなかなかやるな。これが何か分かるかい？近々設立される予定の、ガンスリンガーギルドで使われるハンドガンというやつだ。一つ横流ししてもらったのだが……実に良いね。矢よりも速く威力もある。我々もこんな古典的な武器より、より殺傷力の高いものを使った方が良いとは思わないかクロウ。……ああ、もう聞こえないね」
　仰向けに倒れたまま動かないクロウを見てフンと鼻を鳴らすと、ヴィザリオは踵を返して立ち去ろうとした。
扉の前まで来て、ヴィザリオは戦慄し勢いよく振り返る。視線の先では、倒れていたクロウが体を起こそうとしていた。
「馬鹿な！確かに命中したはず……！」
　上体を起こし何度か咳き込んだクロウは、胸元に手を入れる。取り出した手に握られていたのは、弾丸が食い込んだロザリオだった。ヴィザリオが放った弾丸はこのロザリオに阻まれ、クロウの体には届かなかったのだ。
「また……助けられたな」
　呟き、ロザリオを握り締める。
結局のところ、ここまで来れたのは自分一人の力ではないという事だ。様々な人に助けられ支えられ、初めてここに立つ事が出来る。彼らの想いを、受け継いだ願いを背負った自分は、何があっても負けるわけにはいかない。
　立ち上がり、前方のヴィザリオを見据えた。目がかすみ、体は軋む。鉛のように重い腕を持ち上げカタールを構えると、ヴィザリオもまた刀を構え飛び出してきた。
初撃をカタールで弾く。弾かれた刃先の向きを変え突き出されたのを避け、横薙ぎにしたカタールがヴィザリオの胸を裂く。一歩下がったヴィザリオが逆手に持った刀を投げつける。半身をずらして避けるが、次いで放たれた銃弾を避けきれず、左目の上を掠めた。
眼帯が吹き飛び、焼けるような痛みと共に流れた血が目を覆う。一瞬の隙をついて距離を狭めたヴィザリオが右頬を殴りつけ、倒れたクロウに間髪入れず拳を振り下ろすが、床を転がり避けたクロウの足がヴィザリオの左膝を蹴り抜いた。
前のめりに倒れ手をついたヴィザリオだったが、起き上がろうとしたクロウの頭を掴んで壁に叩きつけた。クロウはその腕を掴んで外そうとするが、何度も何度も叩きつけられ眩暈を起こし、ぐったりと壁にもたれかかった。
「手こずらせおって……っ」
　ヴィザリオは息を切らしながらクロウの右手首を掴んで壁に押し付け、掌に銃口を押し当てるとそのまま引き金を引いた。
「ぐ……ッ！」
　壁に鮮血が飛び散る。更に発砲。クロウは奥歯を噛みしめ苦痛に耐えた。
「これでもう、戦えまい」
　笑みを浮かべてヴィザリオが立ち上がると、戒めを解かれたクロウの右腕は力なく垂れ下がる。それでも、彼を見上げるクロウの目は未だ戦意を喪失していなかった。
「……その目、気に入らんな」
　クロウの顎を爪先で蹴り上げ、頬を蹴飛ばす。クロウの体が吹き飛びうつ伏せに倒れると、今度は左足に銃弾を打ち込んだ。
おびただしい出血で頭が朦朧とする。必死に意識を繋ぎ止め辺りを見回すが、近くに武器は見当たらない。腕に力を入れて上体を起こす。たったそれだけの動作が酷く億劫だった。
　ふと、右腿に巻かれた革のベルトが視界に入る。そこにはエミリオから受け取った短剣を挿していた。
対人戦用に強化されたグラディウス。だが右手がこの状態では、それを握れるかどうかも分からない。
頭を床につけて体を支え、右手を柄に添える。握ろうと力を込めるが、手は震えるばかりで動かない。
（動け……っ）
　更に力を込めると人差し指が動いた。次いで中指、親指。もはや右手の感覚は殆ど残っていない。それでもしっかりと逆手に握り締めて引き抜き、言う事をきかない両足を無理矢理動かし立ち上がった。
ゆっくりと向きを変え、ヴィザリオを前方に捉える。足の出血は止まらず、動く毎にふらついてしまう。
「往生際が悪いな。だが、私をここまで追い詰めた事は褒めてやろう。封印が解けていない状態でそれとは……全く予想外だ」
「何の……事だ」
「知る必要は無い。どの道、君はここで死ぬ」
　そう言ってハンドガンを真っ直ぐこちらに向ける。
「さらばだクロウ」
　言い終わらぬうちに、クロウは走り出した。足が床を蹴るたびに激痛が走るが構わず、痛みを振り切るように雄叫びをあげた。
「うおおおおおおおおおおッ！」
　銃声が鳴り響く。同時に右足を踏ん張り背を向けたクロウはハイディングで銃弾をかわした。
次にクロウが現れたのはヴィザリオの眼前だった。姿を消した瞬間バックステップで一気に間合いを詰めたクロウが、グラディウスを振りかぶる。クロウとの距離がまだあると思っていたヴィザリオは一瞬狼狽えたものの、再び引き金を引いた。が、聞こえたのはカチッという軽い音だけだった。
「なっ……」
　何故だと言おうとしたヴィザリオの喉にグラディウスが突き刺さる。噴き出した血がクロウの顔を染めるが彼はまだ足を止めず進み、ヴィザリオの体を壁に叩きつけた。
「弾切れとは、な……迂闊だった」
「……慣れない玩具に手を出して舞い上がるからだ」
「ふ……なるほど……ゴホッ！」
　咳き込んだヴィザリオの口から血が溢れだす。息をするたびに、ヒューヒューと空気の通る音が鳴った。
「私を、倒したからといって……いい気になるな。お前の体は……呪われて、いる……私の呪い、だ」
「何？」
「いずれ……分かる……存分に、絶望するがいい……」
　クロウの顔に伸ばしかけていた手が落ちる。目を見開いたままがくりと顔を伏せ、アサシンギルドマスター・ヴィザリオは事切れた。
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「はあっ、はあっ……」
　アサシンギルドに戻ったリーズは、血の海と化した廊下を駆け抜けていた。そこかしこに転がる死体を飛び越え、ひたすら最下層へ走る。
辺りは不気味なほどに静まり返っている。膨れ上がる不安を必死に抑えながら、最後の角を曲がった。
マスターの部屋の前にも数人の死体が転がっている。それらを跨ぎ扉に耳を当てるが、何も聞こえない。ゆっくりとノブを回し、少しだけ開いた隙間から中を覗き込む。部屋の中も静かだった。更に扉を開けて中に入り、むせ返るような血の匂いに口を押さえながら辺りを見回す。動く者は誰もいない。皆血まみれの体を床に横たえ、事切れていた。
　否、一人だけこちらに背を向けて立っている者がいた。見覚えのあるその背中に、歓喜の色に顔を染めたリーズは駆け寄った。
彼の足元にマスターの死体が転がっている。そちらに目をやったリーズだったがすぐに顔を上げ、彼に呼びかけた。
「クロウ……？」
　だが彼の返事は無い。恐る恐るその背に触れ、再度呼びかけようとしたその時、
「クロウ！」
　彼の体が前に傾きそのまま崩れ落ちそうになったのを慌てて抱き止め、そのまま座り込み彼の顔を覗きこんだ。
クロウは既に意識を失っており、呼びかけても体を揺さぶっても反応が無い。改めて彼の体を見たリーズは愕然とした。左腕が失われ、体中に刻まれた傷から流れた血で赤く染まっている。リーズは震える手でクロウの頭を抱え、頬を寄せた。
「こんな……こんなになってまで……」
（早く傷を癒さないと……）
　ここから一番近い街はモロクだ。プロンテラほど人の数は多くないものの、近くにダンジョンが二つあり人通りは多い。モロク用の蝶の羽は一つしかないが、これを使うより他に手は無い。
（お願い、私達を連れて行って！）
　クロウを抱きしめ精一杯祈りながら、リーズは蝶の羽の魔力を開放させた。
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　目を開けると辺り一面砂に覆われており、リーズはがっくりと肩を落とした。
通常蝶の羽は一人しか転移させる事が出来ない。それを無理矢理二人で使用した為、座標が狂って砂漠の真ん中に放り出されてしまったのだ。
夜の砂漠は冷える。両手で自分を抱きしめながら周囲を見回していたリーズは、微かに光る街の明かりを見つけた。
（この距離ならなんとか……）
　クロウの腕を肩に回し、彼の体を支えながら立ち上がる。よろめきながらも一歩一歩砂に足を踏みしめ、リーズは街を目指した。
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　―――あたたかい。
　混濁した意識の中、肌に触れる温かさを感じてうっすらと目を開ける。
足元を砂が舞っていた。視界が揺れている事から、誰かに支えられ動いている事に気づく。
　風に揺れる赤い髪が視界に入った。もしやと思いつつも、その姿を確認する事無く再び意識は途切れた。
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　モロクに辿り着き門をくぐったリーズは、がっくりと膝をつき肩で息をする。
二人の姿を見つけた衛兵が駆け寄ってくるが、アサシンだと分かると持っていた槍を突きつけ応援を呼ぶ。
「そこで何をしている！」
「助けてお願い、酷い怪我をしてるの」
「アサシン風情が何をしに来たと聞いている」
　後から来た衛兵達も、同じように二人に槍を突きつける。その様子を見ていた冒険者達が、何事かと徐々に集まってきた。
「おい、アサシンだぜ」
「何しに来やがった」
「うっわ、ヒデェ怪我。あれじゃ死ぬな」
　口々に囁き合う野次馬の中からアコライトを見つけ、リーズは懇願する。
「お願い、この人を助けて。このままじゃ死んでしまう！」
「わ、私は……」
　途端にその場にいる全員から視線を向けられ、そのアコライトはおろおろと視線を彷徨わせる。
「なああれ、『死神の鴉』じゃないか？」
「ホントだ、あいつだ」
「治してあげた途端、暴れ出すんじゃないかしら」
　笑みすら浮かべて見下ろす彼らの姿に、リーズは沸々と怒りを湧き上がらせる。どうしてこう、人間というのはこうもくだらない奴が多いのか。
「……あんた達を頼ろうと思ったあたしが馬鹿だったわ」
　クロウを抱きしめ、野次馬達を睨みつける。彼らの中から一人の商人がポーションを手に駆け寄って来たが、そちらにも鋭い視線を浴びせた。
「おいおい、そうむやみに敵意を向けるもんじゃないぜ」
　商人の後ろから、背の高いプリーストが現れた。ゴブリンの仮面を被り飄々とした口調の、いかにも怪しい感じのする男だ。警戒心を露にしたリーズだったが、法衣の左袖から手が出ていない事に気づき息を呑む。
クロウと同じく、彼も隻腕だった。彼は商人の頭をぽんぽんと叩くと、リーズの視線に構わず傍まで来てしゃがみ込んだ。
「こいつは酷いな……。おいあんた、その子と一緒に水汲んできてくれないか。傷を癒しても血がこびり付いたままじゃ、こいつも気持ち悪いだろ」
　未だ警戒心を拭えず、プリーストを見据える。仮面のせいで表情が分からず、声もくぐもっていて判断出来ない。かといって他の者達は当てにならない事も、痛いほど分かっていた。
「……お願いします」
　もう一度クロウの顔に目を向けてから立ち上がったリーズは、商人と共に街の中心部へと向かった。二人を見送ると、プリーストはクロウの体を抱えて立ち上がり、野次馬達に顔を向けた。
「見せモンじゃねえぞー」
　野次馬達は顔を見合わせ、気まずそうに方々へ散っていく。プリーストは傍に生えている木の根元にクロウを座らせ、ヒールを唱えた。
「……ん……っ」
　癒している最中に意識を取り戻したクロウが僅かに瞼を持ち上げる。しばらく視線を彷徨わせ、傍にいるプリーストに気づくと顔を上げた。
「誰だ貴様……」
「癒してもらっててその言い草かよー。だが誰かと問われれば答えよう。さすらいの仮面プリースト様だ！」
「……何やってんだ、あんたは」
「相変わらずノリが悪いな。つーか片腕になるなんて、俺の真似してんじゃねーよ」
「あんたの真似するくらいなら……死んだ方がマシ、だったかもな」
「ったく……そんだけ減らず口叩けるなら大丈夫だな」
　言いながら、プリーストは仮面を外す。見覚えのあるその顔には、見覚えの無い傷跡が残っていた。
「あんたこそなんだよ、その傷……。俺の真似か？」
「バーカ、俺のは名誉の負傷って奴だ。お前と一緒にするな」
　渋面を作りながらも穏やかな声で言うと、再びヒールを唱える。彼の手に宿る光が、クロウの体を癒していった。
「手配書まで配られた有名人が、なんだこのザマは。今度は何やらかした？」
「……ギルドを、潰した」
「なっ……マジかよ」
「だから、もう……あいつが追われる事はねぇよ」
「……そうか。一応、礼は言っておこう」
　話をしているうちに、クロウの傷は全て癒えた。だが失血と体への負担が尋常ではなかった為、まだ動く事が出来ない。
「あれ、クロウ……さん？」
　するとプリーストの後ろから、声をかけるハンターがいた。顔を上げると、彼女は確信を得たように頷いた。
「やっぱりそうだ、クロウさんだ。眼帯が無いから分からなかったわ」
「何？ジノの知り合い？」
　一緒にいたウィザードが尋ねると、彼女―――ジノは首を横に振った。
「そういうわけじゃないんだけど、監獄に行った時に彼を探してる人達と会って……って、酷い怪我じゃない！」
「あー、大丈夫だ。怪我は治したから。けど消耗が激しくて動けなくてな」
「そうなの？あ、じゃあうちに来る？ギルドで一軒借りてて部屋もいくつかあるし。外で寝るわけにはいかないでしょ」
「おっ、悪いな。じゃあ俺もう行かなきゃならないから、後頼むな」
　リーズ達が戻ってくるのが見え、プリーストは再び仮面をつけて立ち上がる。
「あ、そうそう。俺は死んだ事になってるから、この事は黙っておいてくれよ」
　二人で勝手に話を進められてしまい戸惑っているクロウに、プリーストはそう投げかける。
「何でだ」
「その方が楽しいだろ？鬼ごっこみたいでさ」
「……ったく、あんたらしいな」
「ほっとけ」
　何があったか分からないが、彼には彼の事情があるのだろう。クロウは深く追及せず頷くと、プリーストも頷き彼女達に手を振って去っていった。]]></description>
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            <pubDate>Wed, 13 Jun 2007 21:03:18 +0900</pubDate>
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            <title>外伝第1章 35話　</title>
            <description>　ハンター達が姿を消してからのKnights of the Roundの戦線の崩壊はあっという間であった。
　まずシェンナがリネアとリオーネの援護にストームガストを撃ちこみウィザード達を一掃した。そして大魔法が飛んで来なくなったのでクリアがランドプロテクターを解除し、乱戦の中にも大魔法を数度撃ちこみ騎兵達も姿を消した。その後の掃討戦では余裕が生まれ、外に放逐する事無く捕縛する事ができたのは当然だろう。
「よし、これで万全だと思うが念の為ルアフ・サイトで隠れている奴がいないか探しながら戻るぞ」
「エンペリウムは割らないの？」
　リネアが当然エンペリウムを割ると思っていたのに、ミゲルが割らずに戻ると言ったので少し驚いた感じで尋ねる。
「んー…Knights of the Roundが終わった証になるんだったら割っておいた方がいいか…？」
「そうですね。他のギルドが信じるかどうかは知りませんが、この戦いが終わったという証になるのでしたら割った方がいいでしょうね」
「んじゃ、どっちで割る？俺はどっちでもいいが…」
「私もどちらもで構いませんが…」
　ミゲルがカークスに尋ねれば、カークスも同じような答えを返してしまい、暫く無言になってしまった。
「悩むんだったら、こいつらとの戦うって言い出したカークスが割ればいいだろ。そうすりゃできる訳が無いって協力拒んだギルドだって信じるしか無いだろうからな」
　エミリオに言われカークスは自分が言い出した事で、この戦いが始まった事をあらためて思い出した。そしてその思いを胸にもう一度刻み込んで再び顔を上げる。
「そうですか…いや…そうですね…、それでは割らせてもらいます」
「おう。任せた。こっちは先に戻ってるぜ」
「では…」
　そう言ってカークスはエンペリウムの前に立ち剣を振り上げ勢いよく振り下ろせば、エンペリウムはガシャーンと乾いた音を立てて砕け散った。それと同時にLostEdenに所属していないOverDose、及び捕縛していたKnights of the Roundの面々が周囲から姿を消した。
　カークスが剣を振り下ろしたままの姿で床を見つめ、ここに辿り着くまでの道程を思い出しながら感慨に耽っているとパチパチと拍手が聞こえてきた。顔を上げ振り向けば、エミリオやシェンナ達LostEdenのメンバーが周りを囲んで手を叩いていた。
「おつかれさん」
「ようやく終わったわね」
「おつかれさま」
「目標達成おめでとう」
「みんな…」
　皆の口から出る言葉は、ここまでのカークスの苦労を労うものばかりだった。思い起こせば、Knights of the Roundと戦う事を決意したのもカークスが言い出した事で、LostEdenの総意という訳では無かった。最初は反対意見とぶつかり合う事もあったが、次第にカークスの真剣な思いに打たれてギルドメンバー全員が同じ思いを持つまでに至り、ここまで来ることができたのだ。
「皆のおかげでなんとかここまで辿り着くことが出来ました…。本当にありがとうございます…。そして…これからも無駄な苦労や迷惑をかけるギルドマスターかもしれませんが、よろしくお願いします」
　そう言ってカークスはエミリオやシェンナ達LostEdenのメンバーに深く頭を下げた。

　カークス達LostEdenのメンバーが砦の入り口から出てくると、OverDoseのメンバーや捕縛に協力してくれた人達が何やら騒いでいた。最初は捕縛が成功した事を喜び合っているのかと思ったが、近づくにつれ怒鳴り声が聞こえてきておかしいことに気がついた。
「どうかしましたか？」
　何があったのかとカークスが近くにいたルースに尋ねる。
「えーと…多少はこうなるんじゃないかと予感はしていたんですけど、犯罪者として捕まえるだけじゃなくて、自分達の手で裁きを与えるんだって言う人が何人かいまして、ちょっと揉めてます」
「そんな…。捕らえ裁きの場に出す事に了解して貰うのが、協力する条件だったじゃないですか」
「そうだったんですけど、突然言い出して…」
「土壇場で心変わりしたか、元からそのつもりだったんだろうさ…」
　何か分かっていたかのようにエミリオが後ろから声をかけてきた。
「エミリオ…」
「ま、なんとかおさめてみる努力はするわ」
　そう言ってエミリオは騒ぎの中心に進んでいった。

「だからぁ！犯罪者として捕らえるって最初から言ってたじゃないか！」
「それは聞いていた。だが承知したつもりはない」
「協力するならそれが条件だって最初に話したぞ！」
「俺は協力するのに承知しただけだ。捕らえて裁きの場に出すことには承知していない」
「はいはーい。一旦すとーっぷ」
　手をパンパンと叩きながら言い合いをしているミゲル達と、モンクを代表にした何人かの間にエミリオは割って入った。
「さてと…。ミゲル、こちらの御仁達と言い合ってた理由を説明してくれるか？」
「ああ」
　ミゲルは一つ深呼吸をしてからエミリオにモンクの男性と言い合いをしていいた理由を説明するが、内容は先ほどルースから聞いていた事と大差は無かった。
「んじゃ、モンクのにーさん。あんたが裁きを下す派のリーダーみたいだから代表って事で質問させてもらってもいいかな？」
「何をだ」
「自分の手で裁きを下す理由は当然として…」
「仲間にされた事の復讐に決まっている！奴らのせいであいつは全てを失った！そして姿を消したんだ！あいつを取り戻すことはもうできない。だから奴らの命で償わせてやるんだ！それ以外にいなくなったあいつに手向けになるものは何も無いんだよ！」
　それまで冷静に話していたモンクが突然大声を出したので、周囲の者は驚いた。胸の内に溜まっていたであろう感情を一気に出したのでモンクはぜいぜいと息をしている。そしてその背後から同じ意見の者達も同意の声をあげる。
「そうか…。じゃあ次の質問だ。にーさん、奴らの命を奪った後はあんたどうするつもりなんだ？」
「…ッ！それは…！奴らの命を奪うことだけが今の俺の目的であり存在意義だ…」
　エミリオのサングラス越しに見えるモンクは、質問が意外だったのか、誰の目から見ても明らかに動揺していた。後の事を聞いているのに答えになっていない事に気づいていないのか、答えられないから答えないのか。それは他の者も同じだったらしくエミリオまっすぐに見れている者はいない。
「………じゃあ次の質問だ。奴らの命を…」
「奴らの命を奪うことに躊躇う事は、無い！」
　エミリオの言う言葉を途中で遮ってモンクは躊躇うことなく言い切った。モンクは動揺している自分の気持ちを落ち着かせようと、先手を打って有利に立とうとする。だが、先手を打ったモンクはその考えが甘く、さらに動揺される事になる。逸るモンクを落ち着かせようとため息をつきながらエミリオは言葉を続ける。
「まあまて、最後までしっかり聞け。奴らの命を奪って…、にーさんの言うあいつが、手を真っ赤に染めたにーさんから、奴らの命を手向けに貰って、本当に喜ぶと思ってるのか？」
「………っ！」
「違うだろ？あいつを助けられなかった自分が許せないから、その腹いせを奴らにぶつけようとしてるだけなんだろ？」
　エミリオの言葉がグサリとモンク達の心に突き刺さる。エミリオの言う事は、彼ら自身が心の中で自覚していないままになっていた事を、自覚させられたからだ。そしてそれが事実であるがために、誰もエミリオに反論の言葉が返す事ができなかった。
「黙れぇ…黙れ黙れ黙れ黙れぇ！」
　暫く黙っていたモンク達だったが、突然そう叫んでモンクは体内の気を集め一気に爆発させ、さらに気を高め阿修羅覇王拳を即座に撃てる状態にまで持っていく。
「この拳を撃ちこまれたくなかったら即座にどけ！俺はどうあっても奴らを殺す！復讐の犠牲者の一人になりたくなかったらどくんだ！」
　モンクの阿修羅覇王拳を砦内で受ければ、砦外に放り出される。しかし砦外で受ければ、まず間違いなく死んでしまうだろう。この事は冒険者達にとって当たり前の事であり、そして砦内以外で人に撃つ事はタブーとなっていた。
　ミゲル達が慌てて武器を構えようとするが、カークスがそれを止める。もしも武器を抜けばモンク以外の者達もそれに反応するかもしれないからだ。
　拳を突きつけられエミリオは退くそぶりも見せずにサングラスを外し、さらにモンクに近づき拳が鼻に触れるか触れないかの距離にまで近づく。
　前に出てくるとは思っていなかったモンクは思わず後ずさりする。
　モンクが下がった分だけエミリオは前に出る。
　それを少し繰り返した後、モンクはなんとか踏みとどまりそれ以上は下がら